◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
2017年の9月に地方競馬担当となり、最も予想の参考になったのが、兵庫競馬所属で地方通算4745勝を挙げた田中学騎手の優しさのなかにも厳しさがある騎乗馬に対するコメント。癖のある競走馬の騎乗を依頼されても、結果を出した。スタートで出遅れても「ゲートに入ればすべて騎手の責任」と言い訳をしない真剣な思いに心打たれた。その田中騎手が腰痛のため、現役続行を断念し、8月から調教師となった。
騎手として最後の取材は23年11月の
ジャパンCについて。地方所属馬がJRAのG1に出場するのは異例のことだが、兵庫の
チェスナットコートに自身も騎乗が決まった。意気込みを聞き、「僕があんな大舞台に出ていいのかな…」と照れながら言うのに対し、「G1ファン
ファーレが鳴るなか、ゲートインする姿を楽しみにテレビを見ますよ」と返した。まさか腰痛の悪化で騎乗をキャンセルするとは思わず、それ以降、騎乗することもなかったので、もっと気の利いたことを言えばよかったかなと今となっては思う。
調教師合格の際のインタビューで「(現役を続けるのに)心が折れてしまった。申し訳ない」と悔しさをにじませながらも、騎手としての重圧から解放されてどこかホッとしたように見えた。
開業時期は未定だが、9月に入って父の田中道夫調教師の代行で調教師業務を行うため、久しぶりに競馬場の装鞍所に現れた。久々にあいさつを交わしたが、現役時代以上に穏やかな表情だった。(地方競馬担当・蔵田 成樹
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◆蔵田 成樹(くらた・まさき) 1992年入社。最も取材したい選手はツール・ド・フランス4勝のタデイ・ポガチャル。