今年のエリザベス女王杯・G1(11月16日、京都競馬場・芝2200メートル)は、どんなドラマが生まれるのか。過去の名勝負・09年の
クィーンスプマンテ(父ジャングルポケット)勝利を振り返る。
大逃げを打った11番人気の伏兵、田中博(当時は騎手、現在は調教師)騎乗の
クィーンスプマンテが前半のリードを最後まで保って優勝。人馬ともG1初制覇を飾った。2着も2番手を進んだ12番人気の
テイエムプリキュアが入った。断然の1番人気、
ブエナビスタは究極の末脚で迫ったが、届かず3着。3連単は当時のレース史上最高の154万5760円の大波乱だった。
先頭を走っているのに、ターフビ
ジョンに自分の馬が映っていない。背後から押し寄せる蹄音も聞こえてこない。直線入り口では3番手以下はまだ20馬身以上も後ろだ。「リードがどれだけか分からなかった」。田中博は、無我夢中で
クィーンスプマンテの手綱をしごいた。直線半ば。直後に控えていた
テイエムプリキュアが競りかけてきた。「プリキュアがいてくれたので、競ってまた伸びてくれた」。外から猛追した
ブエナビスタは、目に入らなかった。悲鳴がまじる大歓声の中、1馬身半の差をつけて真っ先にゴールに飛び込んだ。
戦前から宣言をしていた通り、果敢に先頭へ誘導した。「前2頭で離して逃げる形になると思っていた」その通りに事は運んだ。12秒台のラップを刻んで、3コーナーからスパート。持ち前のしぶとさを発揮して、とうとう最後まで粘り切ってしまった。「この馬は6回逃げて、5回勝っている」。パドックでまたがる際に、小島茂調教師からそう声をかけられた。競られてつぶされてもいい。とにかく逃げるだけ。「その言葉が自信につながった」。
2着は
テイエムプリキュア。逃げる
クィーンスプマンテとの叩き合いとなった最後の直線。熊沢の右ステッキの連打に
テイエムプリキュアは、最後の力を振り絞った。残り1ハロン。外から馬体を併せにかかる。「かわせる」。勝利を確信した瞬間、勝ち馬に差し返されて2着に終わったが、
ブエナビスタの猛追は、しっかりとしのいで見せた。2番手で我慢させるベテランらしい技で、存在感は示した
クィーンスプマンテの通過タイムは、60秒5。
テイエムプリキュアと2頭で、大きく後続を引き離してはいたが、それほどペースは速くない。
なぜ
クィーンスプマンテは勝ったのか? 2009年からの過去10年で、最初の1000メートルが60秒以上だったのは6回あるが、その時の逃げ馬の成績は〈17〉〈4〉〈5〉〈8〉〈2〉〈1〉着。人気薄でも、掲示板に載ることがしばしばあった。ワンツーを決めた2頭は、それぞれがマイペースの“逃げ”に持ち込んだと言っていい。
もう一つのポイントは、1400〜1600メートルと、1600〜1800メートルでのラップ。そこで11秒8、11秒7とペースを上げ、後続に脚を使わせた。
ダイワスカーレットが11秒台を刻んだのも、1400メートル地点からだった。
ブエナビスタは、3コーナーでもまだ中団。それに合わせるように、他の馬も動くのが遅れていた。最後の200メートルは12秒9にラップが落ちたが、2頭の“貯金”がなくなることはなかった。