◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断
砂の四天王だ。鈴木康弘元調教師(81)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第26回チャンピオンズC(7日、中京)では古馬の
シックスペンス、
ウィルソンテソーロと3歳の
ルクソールカフェ、
ナルカミを1位指名した。なかでも達眼が捉えたのは、芝からダートにコンバートされた
シックスペンスの立ち姿。安定感の増した姿勢がコンバート成功の証だ。
「量才録用(りょうさいろくよう)」という言葉があります。個人の才能や能力をしっかりと見定め、その力を最大限に生かせる配置をするとの意味。量才録用の成功例といえば、プロ野球の石井琢朗氏。横浜大洋(現DeNA)入団4年目に投手から内野手に転向し不動の
リードオフマンとして活躍しました。投手から外野手に転じ、日本を代表する5ツール
プレーヤーとなった“超人”糸井嘉男氏、投手から一塁手にコンバートされた“幕張の安打製造機”福浦和也氏。サッカー界でも前線からボランチにコンバートされた元日本代表MFの福西崇史氏、長谷部誠氏ら量才録用の成功例は枚挙にいとまがありません。
競馬の世界にも量才録用で大輪を咲かせようとしている競走馬がいます。ダート2戦目となる
シックスペンス。その立ち姿には大きな変化が見られます。右前蹄が狭窄(きょうさく=すぼまって狭い状態)のため芝を走っていた頃は両前肢を遠慮がちに着地していました。ところが、ダートにコンバートされたことで両前肢に体重をしっかり乗せて立てるようになった。芝よりダートの方が狭窄の蹄にかかる負担ははるかに軽い。前走のダート戦(マイルCS南部杯2着)を使われたダメージが蹄に残らなかったから立ち姿も良くなったのです。
今春の安田記念(12着)時に述べた通り、以前から肩に屈強な筋肉を備えていました。餅は餅屋。ダートはダート馬にかなわないものですが、この馬はダート初経験の南部杯で好走した。肩の筋肉
パワーで克服できたのでしょう。今回は全身の筋肉がボリュームアップしています。特に首が太くなった。ダート馬らしい厚手の筋肉を付けています。
毛ヅヤは良好。行き届いた手入れにも好感が持てます。陰部を少し出すなど散漫さもうかがえますが、目、耳、鼻先は一点に集中しているので問題ないでしょう。
「置かれた場所で咲きなさい」という書名のエッセー集(幻冬舎発行)が平成の後半から令和にかけて
ロングセラーになりました。著者の渡辺和子さん(
ノートルダム清心学園元理事長)は置かれた環境の中で努力する大切さを説く一方、「どうしてもここでは咲けないと見極めたら、場所を変えたらいい」とも述べています。芝で花開く才能もあれば、ダートに場所を変えてG1の大輪を咲かせる才能もある。ダート路線にコンバートされて立ち方も筋肉の付き方も変化した
シックスペンス。量才録用の成功例になるかもしれません。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の81歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。