奇跡の馬が三冠牝馬の勝利に待ったをかける(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
会話が成立する人間相手でも意思の疎通は難しいもの。まして言葉を話せない競走馬のすべてを理解することなどできるはずもない――。
確かにそれは正論だ。馬の本音が理解できる日など永遠に来ないと思う。それでも「良し悪しのわかりやすい馬」が存在するのは紛れもない事実。今回の主役キセキは「一歩目を踏み出した瞬間にわかる」(清山助手)のだという。
これがキセキを担当する清山助手だけの感覚ならともかく、この馬に乗ったことのあるほとんどの人間が口を揃えて似たようなコメントをするのだから、おそらくは間違いない。キセキは現役屈指の極めて“わかりやすい馬”。勝手にそう認定している。
ゆえに予想する側のジャッジも常に簡単だ。もちろん、そこに至るまでの詳細を書き始めれば、我が社の紙面でも2ページは必要。なので結論だけで済まさせてもらうが、どう考えても今回は買い――。
「前走(天皇賞・秋3着)は過去最高の状態。勝った菊花賞よりもはるかに良かったんだ。だから、あそこから状態がさらに上がることなんてない。そう思っていたんだけどね。冗談抜きで今回は前回よりもいい。この馬がわかりやすいタイプなのは知ってるよね?」
旧知の仲だ。マンツーマンでのツッコミに自信を隠さない清山助手の言葉を聞き、これは“買い”では物足りない。“爆買い”でイっちゃうか? そうも考えた。
しかし、3冠牝馬アーモンドアイの53キロは誰が見ても有利。キセキが切れで見劣ることは明白なわけだし、やっぱりある程度のリードは欲しいじゃないか。そこらへんをダイレクトに聞いてみると「直線の坂を上がったところで5馬身だな。それなら押し切れる」。
いや、そりゃあそうでしょ。残念ですけど、ルメールはそこまで甘くはない。直線を向いた段階で5馬身。これくらいがいいところじゃない?
「直線を向いた段階で5馬身かあ。確かにいいところだよね。でもさ、俺はオークスにランドネ(11着)を連れていって、2400メートルの競馬でアーモンドアイが走るところを実際に見ているだろ? 確かにあの馬は強いし、53キロの今回はさらに切れるかもしれないとは思う。それでも強行軍で挑んだ当時のランドネと現在のキセキの間に、どれほどの差があるのかを俺は知っているし、置き換えて考えたら…。押し切れる可能性は低くはないと思っているんだ。自信を持って東京に行ってくるから期待しといてよ」
そこまで聞けば、当然ながらキセキが◎――。それが正しい人間の行いと思うのだが、それでも非情に徹してアーモンドアイを◎にするか否かで現在も悩んでいる。
記者はキセキほどわかりやすいタイプではないようだ。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)