“全ての馬にチャンスを”「ハンデキャッパー」が担う重要な役割 全馬が納得のいくレースづくりへ“可能性”を追求

2025年10月07日 06:00

 栗東トレセンで調教を見るハンデキャッパーの宇都宮秀樹さん

 勝負の世界において、“ハンデ”は実力差を埋め、勝負をさらに白熱させるスパイスになる。私自身、ハンデ戦を予想している時は「この斤量なら、もしかしたらチャンスがあるんじゃないか?」と波乱決着を思い描いてワクワクする。

 各馬が課せられる負担重量を決定しているのは「ハンデキャッパー」と呼ばれる人たちだ。普段は決して表に出ることのない仕事だが、競走馬の可能性を広げるための重要な役割を担っている。

 15年以上のキャリアを積んだ11人のJRA職員で構成されており、本部に2人、美浦に5人、栗東に4人配置されている。栗東に在駐している宇都宮秀樹さんは「ハンデ戦は毎週1、2レース組み込まれていて、一つのハンデ戦につき11人の中から3人が一組になり、そのハンデの決定を任されることになります」と説明する。昨年だと、JRAで行われた平地レースの約6%にあたる190競走でハンデ戦が実施された。

 ハンデ戦における各馬の負担重量が発表されるのは、レース当週の月曜午後3時。今か今かと心待ちにしているファンも多いだろう。その前日である日曜夕方に特別登録が締め切られてから、ハンデキャッパーの1週間がスタートする。「各馬の詳細な情報が載っている資料を元に、各自が案をつくって月曜日にミーティングを行います。それぞれ考え方が違うので、なかなかまとまらないこともありますね。おのおのが意見を出し合い、納得できる形で午後3時までに話し合いを終えます」。さまざまな視点から分析することで、偏りのないジャッジが可能となる。週中はトレセンで、そして週末は競馬場で各馬の情報収集には余念がない。

 近走のレース内容、着順、走破タイムなど、多方面からの要素を組み合わせ、それぞれの馬に見合った斤量を熟考するのだが、まず行われるのがトップハンデの馬を決めることだ。「重賞を勝ったことのある馬、またはこの負担重量で当該クラスを勝てる能力を持っていると判断した馬を基礎重量の58キロとします。軸となる馬が決まれば、その馬と比較してここでは足りないかなと思った馬は差し引き、その馬を上回るG1馬などがいた場合は58キロ以上の斤量になります」。この軸馬を元に、他馬の斤量が組み立てられていくことになる。

 資料だけでは詳しく読み取ることのできない部分は、自らの目でしっかりとチェックする。「競馬場にいる時はパドックに行って馬の状態を確認し、返し馬からレースまでずっと見ていますね。もし、パドックで暴れていたり、すごい発汗していたりして本来の力を発揮できていなかったレースは参考外にします」。現地で得た情報も馬の能力を判断する上では欠かせない。

 個人的に最近行われたハンデ戦で強く印象に残っているのは、7月の小倉記念だ。3勝クラスの身で格上挑戦だったイングランドアイズは、51キロという軽ハンデを存分に生かしたレースぶりで、見事に重賞初制覇を飾った。

 “全ての馬にチャンスを”-。宇都宮さんは「またハンデ戦で走らせたいと思ってもらえるように、挑戦する全ての馬が納得してレースを走れるようにということを心掛けています」と力を込める。「人気が分散する」ということはやはり重要。「その結果レースが接戦になるとやっぱりうれしいですね」。ハンデキャッパーとしての素直な思いを明かしてくれた。

 全競走馬の視野、そして選択肢を広げてくれるハンデ競走。ハンデキャッパーの方々はどのような意図で、どのような背景からそのハンデを定めたのか。ハンデの裏にある“可能性”を深く探ることは、その先にあるドラマを一足早くのぞくことにつながるかもしれない。(デイリースポーツ・小田穂乃実)

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