5歳馬テンカイチが36戦目で初勝利、高橋文雅師「馬に気持ちが入っていた」

2015年11月04日 21:15

36戦目にして初勝利を手にした5歳牡馬のテンカイチ(撮影:佐々木祥恵)

 5歳未勝利馬だったテンカイチ(牡5・美浦・高橋文雅)が、10月31日(土)の福島10R 磐梯山特別(500万下・芝2600m)で見事トップでゴールイン。実に36戦目にして初勝利を手にした。

 高橋文雅厩舎を訪ねると、ピカピカの毛ヅヤのテンカイチが馬房の中にいた。

「皮膚が薄い馬ですよ。内蔵も強いのでしょうけど、体調も良いのでしょうね」と担当の竹部英雄厩務員。「ゴール前はさすがに力が入りました」と話す竹部さんは、終始笑顔だった。

 テンカイチは、元々大久保洋吉厩舎の管理馬だったが、今年の2月末で大久保(洋)師が定年して、弟子である高橋(文)厩舎が同馬を引き継ぐ形となった。

「大久保厩舎ゆかりのオーナーの馬でしたし、この馬のお母さんも大久保厩舎にいて僕も知っていましたから、ずっと注目してレースを見ていました。どういう馬かもわかっていましたので、転厩してきても違和感はなかったです」(高橋師)

 長らく勝てなかった理由について、高橋師はこう分析する。

「エンジンのかかりが遅い馬でしたから、長めの距離を使っていました。エンジンがかかってグッと伸びては来るのですけど、届かないという競馬が続いていたのだと思います。実際、転厩してからもそうでした。でもこの馬、着は拾ってくるんですよね。9着以下というのは、そんなにないんですよ」

 そう高橋師に言われて改めて成績表を見直すと、6、7、8着が多く、2度3着という成績も残していた。賞金は8着まで出るため、出走すれば稼いでくる確率が高い。その上、2歳の新馬が入厩してくれば、リードホースの役割もしっかりと果たし、厩舎にとっては貴重な存在にもなっていた。だが古馬の未勝利馬はローカル開催しか使えず、頭数がフルゲート割れしないと出走できないという制限がある。

「狙ったレースを使えないので、今年の夏の新潟でどうにもならなかったら諦めようという話も出ていたんですけど、その頃から馬が良くなってきたんですよ(笑)」

 まだやれるのではないかと考えた高橋師は、オーナーに相談した。

「お母さんもご自身の所有馬でしたから、オーナーもこの馬には思い入れがあって、それならもう少しやってみようかという話になったんです」

 秋の新潟、福島の長距離レースはフルゲート割れする確率が高く、照準をこの時期に合わせた。夏以来、およそ2か月振りに出走した10月24日の新潟の萬代橋特別(500万下・芝2400m)では9着だったが、ダメージがほとんどなかったために、福島の磐梯山特別に連闘で臨んだ。

「馬に気持ちが入っていましたからね。大庭騎手には、ペースが落ち着いたあたりで早めに動いていってほしいと話をしましたが、その通りの競馬になりました。道中、馬が息をちゃんと抜くとジョッキーは言っていました。これまでの競馬とパターンは違いますが、最後は伸びてきてくれましたし、形としては最高だったと思います。してほしかった競馬がやっとできましたし、馬も応えてくれました。勝ったことによって、馬が変わってきてくれる可能性はあると思いますね」

 初勝利のレースを、高橋師はこう振り返った。

 勝って同条件に出走できるテンカイチの気になる今後だが、ダメージが見受けられないこともあり、11月14日(土)福島7R 3歳以上500万下 芝2600mに、中1週で出走を予定している。引き続き、大庭騎手が鞍上の予定だ。

「ダイヤモンドSなど、長距離の重賞に出走させられたら良いですね」と高橋師は話をしていたが、5歳の夏に良化してきたテンカイチなら、この先、さらに成長する余地は十分あるだろうし、重賞出走も夢ではないように思う。

 テンカイチのような例は、レアケースかもしれない。しかし、可能性を信じてここまで待ったオーナーや厩舎サイドの思いが、馬を確実に成長させ、5歳にして初勝利を挙げるという、今の時代では快挙を成し遂げたと言っても良いのではないだろうか。
(取材・写真:佐々木祥恵)

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