キタサンミカヅキが乾いたダートでも発揮する直線でのキレにはあらためて驚かされた。前走アフター5スター賞でも、同じように直線大外から差し切っているのだが、それは地元馬同士でのこと。たしかに今年のダート短距離路線は混戦と言われていたが、北海道スプリントC、クラスターCをそれぞれコースレコードで制したニシケンモノノフ、ブルドッグボスがゴール前で確実に伸びてきているところを差し切ったのだから恐れ入った。
中央オープンからの転入2戦目で内枠に入ったシゲルカガが逃げ、骨折休養明けのコーリンベリーが2番手を追走してという前半3F通過は35秒2。大井1200mのダートグレードとしてはかなりゆったりとした流れ。外枠から好位の4、5番手につけ、直線を向いてあとは前をとらえるだけという理想どおりの展開となったブルドッグボスの左海誠二騎手は、残り200mを切って先頭に立ったあたりで、おそらく勝ったと思っただろう。1番人気のニシケンモノノフも同じような位置を追走し、こちらは6番枠だったために直線ではラチ沿いからしっかりした脚どりで伸びてきていた。キタサンミカヅキは、4コーナーではまだ中団、先頭から6、7馬身ほども離れた位置からそれらを差し切って見せた。
先に示した前半3Fが35秒台というのは、東京盃では近年にない遅いペース。勝ちタイム1分12秒1というのも、1999年に岩手のサカモトデュラブが勝ったとき以来となる1分12秒台での決着。
ただこれは単にペースが遅かったとか、低レベルだったとかではない。最近の大井2000mのGI/JpnIやクラシック戦線を見ていてもなんとなく感じていたことなのだが、ここ2年ほど大井の馬場は確実に時計がかかるようになっている。参考までに、同じ1200mが舞台のJpnIII・東京スプリント(上)と、東京盃(下)の、今年まで4年間の勝ちタイムを並べてみると……。
1.10.7(2014良) 1.10.6(2015不良) 1.11.4(2016稍重) 1.12.7(2017稍重)
1.10.2(2014良) 1.10.9(2015稍重) 1.11.9(2016不良) 1.12.1(2017良)
キタサンミカヅキの中央から船橋への転入初戦、アフター5スター賞の勝ちタイムが1分11秒6(良)であったことから、これでは東京盃では足りないと思って今回の予想では軽視してしまったのだが、今年になってますます時計がかかるようになっていたことを考えれば、十分に勝負になるタイムだった。しかも今回は地方同士のアフター5スター賞より、さらにコンマ5秒遅いという決着だった。
キタサンミカヅキが転入初戦で快勝したアフター5スター賞はまだ万全の仕上げという状態にはなく、「中間の調教があまりいい状態ではなかったので不安でした。(勝って)びっくりしています」と、佐藤賢二調教師が驚いていたほどだった。しかし今回は2週続けて強めに追い切られての馬体重がプラス10kgの532kg。中央時代は520kg台後半から530kg台で走っていたことが多く、強い調教をこなしてプラス馬体重ということでは、相当に充実していたということだったのだろう。
中央では昨年4月にオープン(京葉S)を勝ったあと成績が頭打ちとなり、今年6月17日の天保山S(12着)を最後に船橋に移籍。そこからわずか3カ月ちょっとで、立て直したばかりか、ダート短距離の頂点が狙えるまでに仕上げた佐藤賢二調教師の手腕は素晴らしい。加えて、アフター5スター賞に続いて直線大外一気の差し切りを決めた繁田健一騎手の思い切った騎乗も見事だった。ただしその2戦ともに伏兵的な存在。本番のJBCスプリントでは一転、他馬からマークされる存在になるだろうから、そのJpnIの舞台での能力があらためて問われるところ。
2着には浦和のブルドッグボスが入って地元南関東勢のワンツー。とはいえ、ともに今年春までは中央のオープンを走っていた。転入後、ブルドッグボスはクラスターCをレコード勝ちし、ここでもほとんど勝ったに等しい内容の2着で、おそらくJBCスプリントへと向かうのだろう。今年は同じような時期に、中央上級クラスのダート短距離路線の馬たちがほかに何頭も南関東に移籍しており、今回ワンツーの2頭は地方への移籍が大成功した例といえる。中央から南関東への移籍が相次いだことについては、10月10日付け
『斎藤修の喜怒哀楽』のコラムであらためて触れることにする。