平成屈指の名勝負、2008年の天皇賞・秋はわずか2cmの差でウオッカ(左)が勝利(撮影:下野雄規)
13頭立てとなった今年の天皇賞・秋。重賞ウィナーは12頭、うち7頭がGIを制している超豪華メンバーだ。2008年も豪華メンバーによる壮絶な戦いが繰り広げられた。「平成天皇賞・秋 名勝負列伝」、今回はウオッカを振り返る。
■わずか2センチ差の決着となった最強牝馬対決
出走17頭がすべて重賞ウィナーという豪華な顔ぶれのなか、1番人気に支持されたのはウオッカだった。秋緒戦の毎日王冠は2着に敗れたものの、春は安田記念で前年のダービー以来1年ぶりの勝利を飾っていた。中2週と間隔は詰まっていたが、好調キープが伝えられた。2番人気はデビューから10戦連続連対中のダイワスカーレット。春の大阪杯勝ち後、脚部不安で休養し約7か月ぶりの実戦だった。しかし帰厩後の9月中旬から毎週、安藤勝己騎手が追い切りに跨り、万全の態勢を整えていた。そして、この年のNHKマイルCとダービーを制したディープスカイが3番人気となった。
この日は8レースの2歳500万下・くるみ賞(芝1400m)がレコードという、速い時計の出る馬場。天皇賞・秋も速い時計の決着が予想された。
レースは、ダイワスカーレットが好スタートから先頭に立ち、2〜3馬身と差を広げながら向正面へ。6番手にディープスカイ、その外にウオッカがつけ、道中はやや縦長の展開となる。ダイワスカーレットはペースを落とすことなく11秒台のラップを刻み、1000m通過は58.7秒。位置取りはほぼそのままで4コーナーを回る。直線に入って後続を突き放しにかかるダイワスカーレット。そこへディープスカイとウオッカが併走の状態で猛追し、残り200mからは3頭の叩き合いとなる。一旦はウオッカが抜け出したかのようだったが、安藤勝己騎手の左ムチに応えたダイワスカーレットがしぶとく差し返す。ウオッカもゴール前でまた伸び、最後は2頭並んでゴール板を駆け抜けた。
騒然とする場内のターフビジョンに、勝ちタイム1:57.2とレコードの文字が表示され、東京競馬場に集まった12万2000人のファンが沸き返る。しかし確定のランプはなかなか点らず、ゴール前のリプレイが何度も繰り返し流された。武豊騎手は勝利騎手インタビューで「最後は祈る気持ちで追ったが、ゴールした瞬間はわからなかった」と語った。騎乗したジョッキーも、それを見守った陣営も、勝利に確信を持てる者はいなかった。
勝敗が決したのは13分後、ウオッカに軍配が上がる。ここまでの2頭の直接対決は、4戦してダイワスカーレットの3勝だったが、「ここで負けたら、もう二度とダイワスカーレットには勝てない」というウオッカ陣営の意気込みが、わずか2cm差の勝利をたぐり寄せたのかもしれない。
牝馬による天皇賞ワンツーは、昭和33年の秋以来50年ぶりのこと。確定の瞬間、場内にはウオッカコールが起こるが、それ以上に両雄への惜しみない賛辞と拍手がいつまでも鳴り響いた。