持ち味を最大限生かした浜中騎手の好騎乗によりダービー馬となったロジャーバローズ(撮影:下野雄規)
真夏のような暑さのなか、令和最初の競馬の祭典となる第86回日本ダービーのゲートが開いた。その瞬間、11万人以上を呑み込んだスタンドから悲鳴が上がった。
圧倒的1番人気に支持された、ダミアン・レーンのサートゥルナーリアが出遅れたのだ。
「返し馬まではよかった。ただ、時間が経つにつれて馬のテンションが上がり、ゲートのなかでガタガタするところがあった。いったん落ち着いたが、ゲートが開くときにまた緊張感が高まってしまい、いつもより後ろのポジションになりました」とレーン。
スタンド前でハナを切ったのは、1枠1番から出た浜中俊のロジャーバローズだった。それを1コーナーでリオンリオンがかわし、単騎逃げの形に持ち込んだ。
この展開は、浜中が思い描いていた、理想的なものだった。
「皐月賞の上位3頭は強いと思っていた。逆転するには、この馬の先行力を生かすしかない。スローでヨーイドンの競馬になったら分が悪いけど、ある程度流れて、後続になし崩しに脚を使わせるような競馬をしたいと思っていたら、1、2コーナーで実際にそうなってくれました」
向正面に入ると、リオンリオンが後続との差をさらにひろげていく。8馬身ほど離れた2番手がロジャーバローズ、そこから4馬身ほど遅れて3番手集団がつづく。
3、4コーナー中間地点でも、まだリオンリオンが大きなリードを保っている。2番手 のロジャーバローズが少しずつ差を詰めながら4コーナーを回り、直線へ。
後方の外から進出を狙うサートゥルナーリアは、まだ先頭から10馬身ほど離されている。
ラスト400m地点でロジャーバローズがスパートし、内のリオンリオンをかわして先頭に立った。
「差されても仕方がないと、後ろを待たずに早めにスパートしました」と浜中。
ラスト200m地点では、外から迫る戸崎圭太のダノンキングリーの勢いが勝っているように見えた。さらに外からサートゥルナーリアも差を詰めてくる。
内埒沿いに進路を取ったロジャーバローズが、もう一度手前を左に戻して流れ込みをはかる。それを追いかけてきたダノンキングリーがクビ差まで詰め寄ったところがゴールだった。
浜中はガッツポーズをしなかった。
「普通のレースなら勝ったと思える差でしたけど、まさかという思いもあった。ゴールしてから戸崎さんに『ぼく、残っていましたか?』と訊いたら、『残ってるよ』と言われました。ウィニングランのとき掲示板に1着1番とあるのを見て、本当に勝ったんだ、と思いました」
デビュー13年目、6度目の参戦でダービージョッキーになった。パートナーの特性を最大限に生かし、腹を括って自身の組み立てた戦術に徹し、夢のタイトルを獲得した。
(文:島田明宏)