歴史的女傑を追いかける存在となるか楽しみなサンクテュエール
10頭の出走馬がゲートを飛び出した。クリストフ・ルメールが乗る1番のサンクテュエールと、武豊の5番オーマイダーリンが遅れ気味のスタートとなった。
先手を取ると思われていたコルテジアが行かなかったため、前を行くヴァルナ、プリンスリターン、ディモールトらがほぼ横並びで牽制し合うような形になった。その「間」と内枠を利用するように、ルメールはサンクテュエールを促してポジションを上げ、無理なく3番手の内につけた。
「普段はスタートが速いのに、休み明けだったからか、(出遅れ気味になって)びっくりした。でも、内枠だったし、すぐにリカバリーできました」とルメール。びっくりしていたとは思えない、見事なポジション取りだった。
ヴァルナが単騎で逃げ、1馬身半ほど後ろの2番手がプリンスリターン、その内の3番手にサンクテュエールという並びで3、4コーナーを回った。ルメールはこう振り返る。
「残念ながら、前走(アルテミスS2着)はペースが遅くて、2番手で引っ掛かってしまった。今日は逃げ馬の後ろで冷静に走ることができた」
1番人気に支持されたルーツドールは、サンクテュエールから2馬身ほど離れた外目から前を狙っている。
最後の直線、逃げるヴァルナが内埒沿いに進路を取った。馬3頭ぶんほど外の2番手がプリンスリターン。サンクテュエールはこれら2頭の間に進路を取った。
ラスト200m手前でプリンスリターンが先頭に立ち、さらに末脚を伸ばす。原田和真の重賞初制覇かと思われたが、内からサンクテュエールがじわじわと並びかけてくる。
内のサンクテュエールと外のプリンスリターンが後ろを離して叩き合う。プリンスリターンが二の脚を使い、やや前に出た。サンクテュエールも伸びてはいるのだが、一気にかわすことはできない。牝馬には2キロのアローワンスがあるとはいえ、牡馬と馬体を併せると威圧されて下がるのが普通だ。
しかし、サンクテュエールは、ゴールまでの5完歩ほどでプリンスリターンを競り落とし、ぐいっとクビ差前に出て、ゴールを駆け抜けた。
「能力があります。内埒と馬の間ですごくいい脚を使ってくれた。いい競馬ができました」とルメール。
牝馬でこのレースを制したシーキングザパール(1997年)、ジェンティルドンナ(2012年)、アーモンドアイ(2018年)といった歴史的女傑を追いかける存在となるか。先々が楽しみになる勝利であった。
(文:島田明宏)