オルフェーヴルが大逸走から2着に巻き返した12年の阪神大賞典(ユーザー提供:ミスタールドルフさん)
これほどまでに敗者が、勝者以上に注目を集めたレースがあっただろうか。12年の阪神大賞典。勝ったのは最内枠からロスなく運んだギュスターヴクライ。一方、圧倒的な存在感を示したのは2着に敗れたオルフェーヴルだった。
前年に牡馬3冠と有馬記念を制し、現役最強の座を確たるものにしていたオルフェーヴル。その始動戦に選ばれたのが阪神大賞典だった。このレースで陣営がテーマとしたのは“無理に抑えず、普通のレースをしよう”ということ。というのも、前年の有馬記念は後方から豪快に捲っての勝利。強さを示した反面、秋に見据える凱旋門賞に向けては“普通のレース”を教えなければいけないという考えがあったからだった。しかし、結果的にこれが裏目に出る。
序盤は好位を追走していたオルフェーヴルだが、鞍上の池添謙一騎手が抑え切れないといった感じで、正面スタンド前で2番手へ。そして場内がどよめいたのは2周目の3コーナーだった。並走していたナムラクレセントが向正面で引いたことで、オルフェーヴルが単独で先頭へ。これがトリガーとなったのか、3コーナーで外ラチ沿いに逸走してしまったのだ。
どよめく場内。しかし、オルフェーヴルはこれで終わらなかった。他馬が走り続けているのを見て、競走馬の本能が呼び覚まされたのか、急加速して馬群に再接近。オウケンブルースリに騎乗していた安藤勝己元騎手が4コーナーで「戻ってきた!」と叫んだのは有名な話だろう。
さすがにゴール前で脚が鈍り、ギュスターヴクライには半馬身差届かずの2着だったが、良くも悪くも“怪物”であることを証明した。このレースには逸走と巻き返し、2つの衝撃があったが、より多くのファンに印象に残ったのは後者だったのではないか。
振り返れば、新馬ではゴール後に池添騎手を振り落として放馬、菊花賞でも放馬には至らなかったが、ゴール後に池添騎手を振り落とす場面があった。そして12年の凱旋門賞では誰もが勝ったと思った瞬間、内にモタれて急失速。ゴール寸前で伏兵ソレミアにかわされてしまった。その競走成績と同じ、あるいはそれ以上に強烈な個性で愛されたオルフェーヴル。そのキャラクターを決定づけたレースとして、12年の阪神大賞典は語り継がれることだろう。