多くの分野で人手不足が深刻化している。馬の仕事も例外ではない。JRAは馬に触れたことのない人を就労につなげる役割を担う「育成調教技術者育成研修」「生産育成技術者研修」の自己負担額を約8割削減。先日も競馬学校厩務員課程の修学に関わる費用軽減(25年度10月生入学から)が発表された。
人手不足への取り組みとして今回、紹介したいのが日本調教師会が制作したお仕事紹介マンガ。『学研 まんがでよくわかるシリーズ』の『馬のトレーナーのひみつ(小学生向け)』と『馬のトレーナーという仕事(中高生向け)』だ。非売品で全国の小中学校の図書館や児童館で手にすることができ、日本調教師会や学研“キッズネット”のホームページでも読むことができる。
栗東トレセンでは、安全衛生委員長を務める高橋義忠調教師(56)=栗東=が中心となって人手不足解消に取り組んでいる。師は「人手不足は永遠のテーマ。最初は高校や大学の馬術部といった年齢の高いところを
ターゲットにしていましたが、もっと若い人たちに、親御さんも含めて、こういう仕事があるんだと早めに分かってもらいたいと思いました。興味がない人にも興味を持ってもらうことが目的。少しでもお子さんたちの目にとまればいいですね」と発刊に至った経緯を説明する。
題名は『トレーナー』だが、調教師を紹介する本ではない。「どこかに焦点を当てないとぼやけてしまうので、『トレーナー』となっていますが、全体を見ているトレーナーから波及して分かりやすくしました。競馬を全く分からない人にも仕組みがわかるように」。マンガ、図、写真、解説記事によって、馬、調教、トレセン、厩舎、調教師、助手、厩務員、獣医師、装蹄師など、馬を育て、馬に関わる人たちを分かりやすく解説している。私も新たに学ぶことがあって勉強になるし、面白い。ぜひ、お子様に勧めてもらいたい。
新たな取り組みも行う。「高校馬術部にお邪魔して“就活キャンプ”のようなものをやらせてもらいます。高校を卒業して、馬術部から離れても馬を仕事にしてほしいとアピールできたら。今は、馬術部出身でも8割、9割の人は馬の仕事に就かない。もったいないな、と思います」。7月には栗東から広島へ、美浦から新潟へと厩舎関係者が足を運ぶ。高校馬術部部員の興味を引くようにPR映像も制作中で、「トレセンに入って2、3年の調教助手で、高校馬術部出身で頑張っていた人をピックアップした15分ほどの動画。YouTubeでも見られるようにします」と説明する。
美浦トレセンでは、毎月第2水曜に広報会館4階を利用したターフプラザの早朝解放が実施され、調教を見ることができる。栗東トレセンの実施はないが、「坂路のスタート地点に
タワーを建てたりできないかな。馬の仕事を理解してもらいたいし、親子で見られるようなものをつくれたら」と高橋忠師。ぜひ、実現してほしい。
そのうちの何人が興味を持つの?といった否定的な意見もあるだろう。ただ、人手不足の解消は一朝一夕にはいかない。『馬のトレーナーのひみつ』を読んで、この業界に飛び込みました-。いつか、そんな言葉を聞く時がくると信じたい。(デイリースポーツ・井上達也)