今週の「夏の自由研究」は功労馬編。2020年に史上初となる無敗での牝馬3冠に輝いた
デアリングタクトを取り上げる。現在は北海道新ひだか町の岡田スタッドで繁殖牝馬として過ごしている。今年3月に父
ベンバトルの初子を出産。母として現役時代を上回る優等生ぶりを、浅子祐貴記者がリポートした。
デアリングタクトは2020年、日本競馬で史上初となる無敗の牝馬3冠を成し遂げた。23年10月に右前肢のけいじん帯炎が再発し、引退。その能力を次代に伝えるため、現在は北海道・新ひだか町の岡田スタッドで繁殖牝馬として過ごしている。今年3月8日には、初子となる父
ベンバトルの牡馬を出産。新米ママとして子育てに励む日々だ。
岡田スタッドグループを率いる岡田牧雄代表は「子供をよくかわいがるし、体調管理もすごく楽で母親として優等生。繁殖として、こういう馬ばかりがほしい。競走馬の時よりも優秀なくらい」と最大級の評価。子供にあまり興味を示さない放任主義的な母馬もいるが、
デアリングタクトは息子の写真撮影中も早く放牧地に行きたい気持ちを抑え、ずっと我が子に寄り添っていた。
現役時代の成績はどの馬よりすごくても、牧場に戻れば同じ一頭の牝馬。出産前の
デアリングタクトは5、6頭が過ごす放牧地にいたが、その中で一番のいじめられっ子だった。ところが出産を終えると一変。今では子供を守るために、他馬を寄せ付けない立場となり“母は強し”を体現している。放牧地で3冠牝馬の親子は独特の存在感を醸し出し、軽快に駆け回っていた。
偉大な歴史を作った
デアリングタクトは、大手の出身ではなかった。生産は日高町の長谷川牧場。牧雄氏は「小さい家族経営の牧場が、いい馬をつくりたいと夢を持って育てた馬。そういった牧場が努力して
デアリングタクトが出たことで『次は自分のところで』となった生産者は多いと思う。いいことをやったなという思いはある」と語る。
デアリングタクトの活躍はグループの自信につながっただけでなく、小規模で営む生産者たちに勇気と希望を与えた。
「初子で心配したが、しっかりした子を産んでくれた」と牧雄氏。今年は
イクイノックスと交配し、おなかには新たな命が宿っている。
ベンバトル産駒は早ければ27年にデビュー。母の愛情をたっぷりと注がれた良血がターフで躍動する姿が、今から楽しみでならない。(浅子 祐貴)
デアリングタクト 父
エピファネイア、母デアリングバード(父キングカメハメハ)。2017年4月15日生まれの牝8歳。北海道日高町・長谷川牧場の生産。18年セレクトセール1歳でノルマンディー
ファーム(馬主名義はノルマンディーサラブレッドレーシング)が1200万円で落札。栗東・杉山晴紀厩舎から19年11月にデビューし、20年に桜花賞、オークス、秋華賞を制して史上6頭目、無敗では史上初となる牝馬3冠を達成した。通算13戦5勝(うち海外1戦0勝)。総獲得賞金は6億4413万2400円(うち海外3321万7400円)。23年10月に現役を引退した。
◆岡田スタッド 北海道新ひだか町にあるサラブレッドの生産牧場。繁殖施設は新ひだか町や日高町に、育成施設は新ひだか町、えりも町、福島県小野町にある。主な生産馬にマツリダゴッホ、
タイトルホルダー。ノルマンディー
ファームやオカダスタッドなどと総称して岡田スタッドグループという。現代表である岡田牧雄氏の父・蔚男(しげお)氏が「岡田蔚男牧場」として創業し、84年から現名称。独立した兄・繁幸氏は「マイネル」「コスモ」の冠名で知られるビッグレッド
ファームの創業者。