「札幌記念・G2」(17日、札幌)
ホースマンには感謝が尽きない馬がいる。札幌記念に
ケイアイセナで挑む佐々木剛助手(栗東・平田)にとっては、
セナの母に当たる
ケイアイガーベラが特別な存在だ。感謝の思いがあふれ、現役引退後は北海道新冠町の隆栄牧場(現在は新冠橋本牧場で繋養中)へ何度も足を運んだ。「自分の厩務員人生に自信を与えてくれた存在でした。答えが分からないなかでもそれなりの結果を得ることができて、“自分でもやっていけるんだ”と思わせてくれました」。
10年のプロキオンSで人馬ともに重賞初制覇。ラストランとなった11年カペラSで有終の美を飾り、短距離ダートで9勝を挙げる活躍を見せた。「あのプロキオンSはうれしかったですね。あの馬はダート馬特有の独特な硬さがあって、左回りが駄目だったんです。当時は長距離輸送が良くないと思っていましたが、最後は中山のカペラSを勝ちましたから。まあ、引退してから分かったことですけど…」。競馬は
トライ&エラーの繰り返し。後悔の思いを糧に、新たな出会いとともに前へ進み続ける。
それから6年後。佐々木助手が担当することになったのが、
ガーベラの2番子に当たる
ケイアイノーテックだった。人馬ともにG1初制覇を果たした18年NHKマイルCはいい思い出。「自信なんて全くなかったです。前哨戦で2着に負けていましたし、
タワーオブロンドンなど強い馬がたくさん出ていましたからね。レースの間は移動バスの中でした。もう、怖くてモニターは見られなかったです(笑)。勝ったと分かった時には頭の中が真っ白で…。G1の口取りの際、担当者は馬場まで迎えに行くじゃないですか。それが頭になかった僕は、検量室前で待っていたんです。それが本当に悔やまれます。次にG1を勝つ機会が訪れた時には、必ず迎えに行こうと思っています」。
札幌記念に挑む
ケイアイセナは、ノーテックの4つ下の全弟。同じディープ産駒ながら、初見からタイプが違っていたという。「ノーテックは最初から出来上がっている感じでしたが、
セナは兄に比べると幼さがあり、いきなりという感じではありませんでした。案の定、そうでしたね」。
人と同じで、兄は兄であり、弟は弟。
セナは
セナなりに鍛錬を重ね、6歳にして前走の巴賞でオープン初勝利を果たした。「以前のうるさいところがなくなってきたので“老けたなあ”と思っていましたが、巴賞をレコード勝ちしてくれました。自分のなかでは“強くなった”という手応えはないのですが、もしかしたら函館Wでの調整が合っているのかもしれませんし、僕らが思っている以上に洋芝適性があるのかもしれません」。
それでも、札幌記念へのチャレンジには「いきなりG2ですからね。さすがに甘くはないと思います」と冷静さを失わない。ただ、“持ってる”
セナに期待する自分もいる。「こないだの巴賞はディープ産駒のJRA通算2800勝の
メモリアルVだったんです。今回の札幌記念を含めて、この先に重賞を勝つことができれば、この馬がディープ産駒の最後の重賞ウイナーになれるかもしれない。記録に刻まれるよう、頑張りたいですね」。苦楽をともにした母ガーベラ、兄ノーテックへの感謝を胸に、遅咲きの弟とともに北都でミラクルを起こす。(デイリースポーツ・松浦孝司)
◇佐々木剛(ささき・つよし)1978年12月14日生まれ、46歳。大阪府出身。たまたま手にした雑誌がきっかけで競馬の世界に飛び込んだ。滋賀県の湖南牧場等を経てJRA競馬学校を卒業し、04年に栗東・佐藤正雄厩舎へ。08年に栗東・平田修厩舎へ移籍し、今に至る。馬づくりのモットーは「馬の邪魔をしないこと」。
ケイアイガーベラ、
ケイアイノーテックはもちろん、初勝利を挙げた
ワンダーシンゲキも思い出の1頭。家族は妻と一男二女。