富田が米国修行で得たものとは 約9カ月間の厳しくも充実した日々 かけがえのない経験で取り戻した日本競馬への熱い思い

2025年09月09日 06:00

 米国武者修行で成長した姿を見せたい富田暁

 人間という生き物は長い期間、同じ環境に身を置くと“慣れ”が生じるもの。どれだけ周りに恵まれていたとしても、そのありがたみが徐々に薄れてくる。凡人の私には想像するにとどまるが、トップ層のどんな人だってきっとそう。しかし、その熱い思いを揺り戻したジョッキーがいる。富田暁騎手(28)=栗東・フリー=だ。中堅という立ち位置に片足を突っ込み始めた28歳は、アメリカ遠征というかけがえのない経験を胸に歩みを進めている。

 昨年11月から今年8月中旬までの約9カ月間、アメリカ西海岸の計4競馬場で修行。最初の4カ月は競馬に乗ることすら難しく、勝ち星も挙げられなかった。さらに、3月の一時帰国後は、さらなる窮地に追い込まれた。「向こうに戻ったら、もともとのエージェントが違うジョッキーをやっていました。違う方を探しても見つからなくて…。調教にも乗れないということが続いていました」。そこで手を差し伸べてくれたのが、北米で活躍する木村和士騎手。かつては福永祐一元騎手も担当していたエージェントのブライアン・ビーチ氏を紹介してもらい、ゼロからの再起を図った。

 そのタイミングでエメラルドダウンズ競馬場に拠点を移し、地道な営業活動に励んだ。「まずは一緒に全厩舎を回らせてもらって、“調教から乗せてください”と。断られることの方が多かったですけどね」。決して簡単ではなかった。それでも、毎朝誠実に積み重ねた結果、少しずつ乗り鞍を勝ち取り、最終的には3勝をマーク。「大事な経験でした。何者でもない僕を乗せてもらって。1頭乗れるだけですごくうれしかったです。向こうは調教騎乗料がないので、稼ぐハングリーさが身につきました。競馬に乗らないと稼げない。特に物価高で“レタスを買うのにもこんなにするんだ”って。人間としても成長できました。この経験は無駄にしちゃいけないと思います」と、厳しいながらも充実していた日々を振り返る。

 9カ月の米挑戦で気付かされたものは、ハングリー精神だけではない。「向こうにいても、“日本が1位だな”と思いました」。馬のレベルや施設そのもの。「全部がすごくいい環境」ということは、外から見なければ忘れがちなことだった。「アメリカの人々もみんな日本の競馬を見ていて、注目されているんだなと。みんなが行きたいと思うところの免許を持っているのは、改めてすごいことなんだなと感じました」。日本にいる時は、置かれた環境に“慣れ”が生じていたが、武者修行中に改めてそのありがたみを認識させられた。

 今年3月には師匠の木原師が定年引退してフリーに。帰国後は軸を置かずにさまざまな厩舎を手伝い、復帰初週は15鞍、2週目は16鞍を集めた。「今はまだ色眼鏡で見てもらえているところなので、これからだと思います。2場開催が始まって、そこで集めないとですね」と気を引き締める。

 数字的な目標は年間50勝だが、騎手としての一つの到達点には別のものを掲げる。「今まで他人に憧れてきて、どこかで自分のスタイルを見失っていました。外から見て思うことがあったので、自分を見つめ直して『富田暁』をつくっていきたいと思いました。上にいる方々は、みんな“その人”なんです」。他の誰でもない-『富田暁』がここから紡ぎ合わせていく日々に、熱視線を送りたい。(デイリースポーツ・山本裕貴)

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