先々週のこと。やたらと「穴」をあけている騎手が気になった。1年目の田山旺佑騎手(19)=栗東・新谷=だ。ルーキーで全体2位の14勝(24日現在)。15日の京都は5Rで11番人気、6Rで最下位16番人気の単勝206・2倍を2着に導き、翌16日の京都1Rでは8番人気で勝利するなど高配当を演出した。先週の24日にも福島6Rで勝利(3番人気)。目下3週連続で勝ち星を挙げている。
好調の要因は何か。3月のデビュー以来、体幹トレーニングによって下半身の可動域を広げることに取り組んできたのは知っていたが、変化は肉体面だけではなく思考面にも及んでいた。「考えを持ってレースに臨めるようになってきたのかなと。固め過ぎるのは良くないですが、プランも大事。隊列、シチュエーションを想像して自分のプランに持っていくために、ゲートを切るまでにどう工夫するか」。レース経験を重ねるごとに引き出しも増え、アプローチも深まっている。
日常生活のささいな気づき、その全てが仕事につながる。「最近の新たな発見です」と教えてくれたのが自動車の運転だ。10月初旬に運転免許を取得し、大型のSUVを購入したばかり。「『今行けるのかな?行けないのかな?』みたいな判断力が上がったというか。高速道路の進路変更だとか右折左折とか」と笑う。「少し迷いがなくなりました。競馬では進路がふさがるより、行ってどうなるか。失敗することもありますが、反省してそれを分析して、自分に落とし込んで、また次につなげられたらいいなって」。19歳の思考は柔軟かつ貪欲だ。
もっとも、その失敗を見守る環境にも恵まれた。所属する厩舎のスタッフ、そして師匠の新谷師への感謝がある。「自厩舎に乗る時は先生がレース前に一緒に悩んで組み立ててくれたり、自厩舎じゃなくてもレース後に
フィードバック、アド
バイスもしてくれます。先生から見てもらえているなと、すごく感じますね」。厩舎の大仲には馬体の構造について書かれた専門書や医療書なども置かれてあり「そういう環境をつくってもらっていて、ほんまに感謝しかないです」と頭を下げる。
日々の調教も勉強だ。一日の終わりには湯船で温まり、目をつぶる。まぶたには馬上からの景色、全身には背中からつかんだ感触がよみがえる。「こんな感じで乗ったけど、うまくいかなかったから、あすはこれを試してみよう」。自身のスキルアップはもちろんだが、それだけでもない。「僕がうまくなって馬にも効果がある調教ができれば、少しでも長く競走馬生活が送れますからね」と優しくほほ笑む。
そんな
ポジティブな田山も、デビューしてからしばらくは涙を流すことも多かったという。真剣に取り組んでいるからこその悔し涙だが「『なんでこんなにうまくいってないんやろう』って。でもそれも結局自分のせいかなと思えることも多かった。それから自分の力だけじゃ解決できないところもあることにも気づきました。周りの方にも助けてもらえています」。苦悩を経て人間としても一回り成長している。
目指すトップジョッキーに向け「瞬時のレース勘と仕掛けどころを磨きたいです」と謙虚に語る。競馬
サークルとは無縁で実家は祖父から続く空手道場。自身も小学生時代には兵庫県の空手大会で上位を争った経験も。セールスポイントを「礼儀作法と根性」と空手家然として明るく語ったが、勝つための探究心や思考は並みの新人ではない。その芽がいつ爆発的な成長を遂げるのか今から楽しみだ。(デイリースポーツ・島田敬将)