上昇カーブを描く愛馬の背中に鞍上は酔いしれた。豪快な末脚で桜花賞を制した
アユサン。美浦Wで丸山を背に見せた最終デモの先に、昨年の
ジェンティルドンナに続く牝馬クラシック2冠制覇がくっきりと見えた。
3頭併せの最後方からスタート。先頭まで7馬身の位置からゆったりと進み、徐々にピッチを上げて4角で本気モードに。反応鋭く最内から楽々と抜け出し、中
マイネルテンクウ(4歳500万下)に1馬身、外
セイウンオウサム(6歳1000下)に楽々と4馬身差をつけた。6F85秒3-38秒3-12秒7。全体時計に特筆すべき点はなくても、最後まで集中した走りにはGI馬の風格が漂う。
2週連続で騎乗したジョッキーの感触は二重丸だ。「先週は中間で楽をさせた分、まだ馬が戸惑っている感じ。でもきょうは自分からスッと反応した。いいですね」と満足顔。デビュー前から調教にまたがり、その成長曲線を誰よりも知る22歳は「暖かくなってトモがパンとしてきた。桜花賞の時も“これなら”と思っていたので」と、本格化を改めて実感する。
全ては樫の舞台で最高のドラマを生み出すための布石だったのかもしれない。手応えを胸に臨むはずだった桜花賞。そこに主戦の姿はなかった。前日の福島5Rで落馬し、腰椎横突起骨折の診断が下された。C・デムーロが代打騎乗を務め、見事な手綱さばきでV。「レースは生で見ていない。見られる心境ではなかった。正直、もう
アユサンに乗れないと思った」とはプロの騎手としての偽らざる本音だろう。
それでもレース翌週にはコンビ継続の一報が届く。新人時代から付き合いの深いオーナーの星野壽市氏が再び機会を与えた。ドライな乗り代わりが頻発する今の競馬界では珍しい光景でもある。「うれしさよりも、責任を強く感じた。デビュー前に“この馬が僕を男にしてくれる”と思っていたから。オーナーに恩返しをしたい」。燃えないわけがない。
運命のゲートは2枠(4)番に決定。「一番外は嫌だった。枠は気にしていない。焦らず乗れば結果はついてくる」。自身のGI初制覇、そして
アユサンの2冠達成。デビュー5年目を迎えた若武者は、自らの手で劇的なドラマの完結を目指す。
提供:デイリースポーツ