2013年夏の特別企画。担当馬に愛情を持って接している厩務員さんや調教助手さんと愛馬との「絆」をお届けします。普段なかなか知ることのできない、競馬の舞台裏。トレセンで日々取材しているライター陣が、とっておきの温かいエピソードをリレーでご紹介します(8月の毎週金曜公開)。初回の今回は、馬サブローの松永篤記者です。
最強馬決定戦とうたわれた宝塚記念を制し、名実ともに国内トップホースに登り詰めた
ゴールドシップ。GI・4勝の実績もさることながら、王道を歩み続ける姿に感服するファンも多いだろう。ただ、スターホースが活躍する裏では馬を支える人々の懸命の努力がある。今回、スポットを当てたのは厩務員の今浪隆利さん(栗東・須貝尚介厩舎)。デビューから
ゴールドシップを担当し、同じ時を過ごしてきた女房役の今浪厩務員に、愛馬とのエピソードを尋ねた。
“常に安全第一”
今浪厩務員は、この道30年を超えるベテラン。愛情を持って馬に接し、何より“安全第一”をモットーとしているという。
「無事に競馬へ送り出すことが大事。そのためにレース前、そしてレースが終わってからのケアは入念にやっている。競走馬にとって怪我が一番怖いからね。自分の担当する馬は朝晩にタオルで乾布摩擦のような感じで、全身をマッサージしている。以前、所属していた中尾正厩舎のときからやっていることで、シップもデビュー前から毎日ずっとそうしてきた」
“支えてくれるのは、なにも人間だけじゃない”
ゴールドシップは2歳、3歳、そして古馬になってからも故障なく、常に一線級で活躍を続けている。順風満帆の表現がピッタリだが、今浪厩務員はサポートしてくれる多くの存在への感謝を忘れない。
「周りにいる多くの存在から支えられている。それに競走馬をサポートしているのは、なにも人間だけじゃない。たとえば、シップは同じ厩舎で
タイセイモンスターと仲良しでね。厩舎で大将格のシップは、他馬を近付かせないボス的な存在だけど、あの馬には心を許しているみたい。
タイセイモンスターには普段から先導役として頼らしてもらっている。馬運車でも同じだと落ち着くみたいで、遠征する時は一緒に行動することも多いんだ」
“格別に嬉しかった、宝塚記念”
レース当日も細心の注意を払っていると話す。
「シップは競馬場に行くとイレ込むところがある。宝塚記念の時は隣の馬がうるさくて、何かあってはいけないと鼻前で目を離さず付きっきりで見ていた。苦労があっての一戦でもあったから、あの宝塚記念は嬉しかった。天皇賞(春)の敗戦も悔しかったし、内田(博幸)くんや、厩舎が一丸になって臨んだレースだったから。
1着でゴールして、あんなに感情が溢れてきたことはないってくらい、僕も嬉しかった。有馬記念や菊花賞、皐月賞も嬉しかったが、宝塚記念は格別だった。レース後のシップも満足したのか、とても大人しくて“僕、一生懸命に走ったよ。顔をさすってよ”って感じですり寄ってくる。普段は自分の世界に入って、蹴ったり飛びかかってくるやんちゃ坊主なのに、その時ばかりは甘えん坊でかわいかった」
“夢を叶えてくれる馬”
今浪厩務員は
ゴールドシップを“夢を叶えてくれる馬”と表現する。
「これから、もっと強い
ゴールドシップの姿を見せたいと思っている。宝塚記念の時も感じたが、ファンの多い馬だと実感している。ファンにとっても厩舎にとっても、僕にとってもあの馬は夢を叶えてくれる馬。競馬の世界に入って長いけど、あのような馬にはそうそう出会えない。順調に行けば種牡馬としても期待もかかるだろうし、将来はあいつの産駒を担当してみたい。それまでこの仕事を頑張ろうって思っているよ(笑)」(取材・写真:馬サブロー松永篤)
◆今浪隆利(いまなみたかとし)
1958年9月20日生まれ。内藤繁春厩舎、中尾正厩舎を経て、現在の須貝尚介厩舎へ。モットーに安全第一。
ゴールドシップが出走する際は“赤い
スパイダーマン”のパンツを履くのがゲンかつぎ。