先月22日付で、ある一頭の馬が競走馬登録を抹消された。私はふとその馬の名に、目が止まった。なぜならその馬の名前が、史上11頭目となる平地・障害双方で重賞制覇を果たした
ソロルだったからだ。同馬が所属した中竹厩舎に足を運ぶと、厩舎の番頭である白倉助手が、デビュー戦からの軌跡を話してくれた。
名手
スミヨンを鞍上に配した12年10月28日の東京4R。内ラチ沿いから伸び脚を見せて1着に入線したが、直線での内側への斜行が審議対象となり、10着へ降着となった。これが「個性派
ソロル」の幕開け。「そこそこやれる自信があった。気難しさは見せていたけど、乗り味が良かったですからね」。
喜びもつかの間だった初陣から3戦目。「2戦使って、父がシンボリクリスエスだし、ダートもいいんじゃないかなと。こなせそうなパワフルな走りをしていましたよ」という判断は正解だったようで、砂上で初勝利。以降ダートを主戦場にしながらクラス昇級を重ね、14年の
マーチSで重賞ウイナーの仲間入りを果たした。白倉助手が一番記憶に残っているレースだという。「これでダートのG1を獲ってやると思いましたよ」と当時の興奮を伝える。
だが以降、オープンで好走するものの、G1の舞台に立つことはなかった。使いたいレースが使えず、メンバー的にも上位を争うには頭打ちの状況だったことから、障害への転向に踏み切ることになる。「新馬もそうでしたけど、“初め”は頑張りよるんです。でも気持ちが続かない。人間で言うと“飽きっぽい”性格なんですよね」と苦笑いを浮かべるが、続けてこんな言葉が白倉助手の口を突いた。「でも、真面目過ぎたら、ここまでこれなかったのかもしれません」と-。
16年には見事な初障害初勝利。障害オープンでも馬券圏内に顔をのぞかせる走りっぷりを見せた。そして今年7月の小倉サマージャンプ。「仕上がりは万全ではなかった。体も緩くてギリギリだったけど、気持ちが走る方向に向いていて。いい競馬でしたね」と話す通り、障害重賞初Vを果たした。単勝1・6倍と圧倒的人気を集め、無類の強さを誇っていた
アップトゥデイトを負かしての美酒。こういった点が、
ソロルの
ソロルたるゆえんかもしれないと感じる。
重賞連勝を狙った先月の阪神ジャンプS。後方から徐々に差を詰めにかかったが、最後の直線で馬体の故障が発生し、競走中止に。最後の障害を飛越することなく、競走馬人生の幕を閉じた。「目に見えないダメージが徐々に来ていたのかな。中山大障害まで行きたかったんですけどね。命が無事で良かったです」。右前脚浅屈腱不全断裂により競走能力喪失。引退後は、生まれ故郷である北海道追分
ファームで乗馬になることが決まった。
陳腐だが、「ひと言で表現するなら、
ソロルはどんな馬?」と聞いた。すると白倉助手は「夢を見させてくれた馬」と言った。「新馬戦で、クラシックだ!と思って。ダートでG1、障害でもG1という夢をね」。取材中、
ソロルに対する同助手の言葉はまるで、手の掛かるやんちゃ息子の事を話す親のようだった。うるさく、気難しさもある一方で「走りだしたら乗り味のいい、走りやすい馬だった」との褒め言葉も。
芝、ダート、障害とあらゆる
ジャンルでファンの心をつかんだ
ソロル。「全てのカテゴリーで
トップレベルの、“すごいヤツ”ですわ。長いこと頑張ってくれて、言うことないですよ。もう一度2歳で入厩してきたら、違う育成ができると思うし、勉強させてもらいましたね。個性は要らないですけど」と笑った白倉助手。今月からG1シーズンが本格化し、京都や東京の新馬戦も熱を帯びてくる。そんな秋競馬で、また
ソロルのような個性派の登場を、楽しみにしたい。(デイリースポーツ・向 亮祐)