史上初となる無敗での父子制覇となったトウカイテイオー=91年5月26日・東京競馬場
これまで数々の名場面が繰り広げられた競馬の祭典「日本ダービー」。中でも1941年セン
トライト、51年トキノミノルなど、“○○○1年”の開催では印象に残る名馬、ドラマが誕生した。この連載では、1971年から2011年までの5回にスポットを当てる。第3回は91年、プレッシャーのかかる舞台を3馬身差の圧勝で制したトウカイテイオーについて安田隆行師に当時を振り返ってもらった。
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単勝オッズは1・6倍の断然人気。父シンボリルドルフに続く無敗2冠馬誕生へ。これでもかというプレッシャーのかかる舞台でも、トウカイテイオーと安田隆行は自信満々だった。道中は6番手で運ぶと力強く抜け出して3馬身差の圧勝。直線では先輩・田島良保からもらった「府中の直線(坂)は気持ち斜めに行ったら伸びるから」というアド
バイスを思い返す余裕もあった。
18万人の大歓声は、馬場入りの段階からずっと聞こえていた。それが1周して帰ってくると「ヤスダ・コール」に変わっていた。自然と涙があふれる。「いや、恥ずかしくなってね」。ほぐれていく緊張とともに、いかにこの一戦に入り込んでいたかを感じていた。
トウカイテイオーはその後、骨折で菊花賞に挑めず、父子2代の無敗3冠の夢は果たせなかった。当時38歳の安田隆は3年後、調教師に転身。開業27年目の今年、
ダノンザキッドで「ダービージョッキーかつダービートレーナー」に挑戦するはずだったが…。1週前追い切り後に骨折が判明。見る側に変わってしまった。
「ダービージョッキーがダービートレーナーになるのは大いなる夢です。私も資格のある、限られた調教師ですから」。定年までにダービーに臨み得る管理馬は残り2世代。諦めてはいない。