2013年の全日本2歳優駿を制したハッピースプリント(撮影:高橋正和)
12月14日(水)に川崎競馬場で行われる全日本2歳優駿(2歳・JpnI・ダ1600m)。ダート2歳王者を目指す素質馬が全国から顔を揃える。
今年、札幌競馬場で行われたクローバー賞とすずらん賞を制すなど「ホッカイドウ競馬の2歳馬はレベルが高い」とファンや関係者は口々に言うが、その実力を以ってしても、なかなか掴めないタイトルが『全日本2歳優駿』であった。
1993年にキタノジライ、2001年にプリンシパルリバーが制したが、GI級に格上げとなってからは勝利を挙げることが出来ず。トップサバトン、ディラクエ、ビッグバンなど北海道2歳優駿を制した各馬も、全日本2歳優駿では全国の強豪を前に涙を飲んだ。
この記事ではホッカイドウ競馬に待望のビッグタイトルをもたらし、2013年のダート2歳王者およびNARグランプリ年度代表馬に輝いたハッピースプリントについて振り返る。
ハッピースプリントは父アッミラーレ、母マーゴーン、母の父Dayjurという血統の牡馬。北海道・浦河町の辻牧場で生産され、北海道では田中淳司厩舎、後に移籍した大井では森下淳平厩舎に所属した。
父のアッミラーレは現役時代にダートの幅広い距離で6勝を挙げたが重賞勝ちはなく、アメリカで現役生活送った母のマーゴーンも未勝利馬。決して超一流とは言い難い血統ではあったが、ハッピースプリントは地方競馬のトップホースへと成長していく。
2013年3月21日に行われた能力試験を52.7のタイムで合格し、同年5月15日にデビューを迎えた。3番人気で出走したハッピースプリントは、馬なりで2番手に付けると、道中も抑えきれない手応えで追走。直線は鞍上のアクションに鋭く反応し、2馬身半差を付けて初陣を勝利で飾った。
……と、ここだけ見るとよくある新馬戦の一コマに感じるかもしれない。ところが、2着のコスモスパークルが次走で勝ち上がり、ハッピースプリントから10馬身近く離れた3着のニシケンムートが次走から2連勝。下した馬が活躍するに連れ、ハッピースプリントへの評価は自然と高まっていく。
単勝1.7倍の圧倒的な支持に応えて2戦目も快勝。その後JRAの芝競走でも連続5着に健闘したが、やはりダートではものが違うと云わんばかりの走り。同年10月のサンライズCは、出遅れてシンガリ追走の絶望的なポジションから勝利し、続く北海道2歳優駿でも前走の再現かのような大外ひと捲りでグレードタイトルを奪取。ダートではただただ強いの一言だった。北海道に敵はいない。陣営は自信を胸に師走の川崎を目指した。
この年の全日本2歳優駿は2連勝中のメイショウイチオシや、同じホッカイドウ競馬出身のニシケンモノノフらが人気を集めたが、1番人気に支持されたのはハッピースプリント。初の左回りや、長距離遠征など不安点も有ったが、ファンは北海道の星に期待を懸ける。
レース本番、小回りで先行有利なコースを踏まえてか、宮崎騎手は出ムチを入れて促し、ハッピースプリントは先行集団の一角に付けた。道中はスザク、ニシケンモノノフの後ろで折り合いを付けながら機を窺い、3コーナー過ぎから一気に進出。直線はスザクとの一騎打ちになったが、残り100mでついに振り切り、最後は1馬身半差を付けダート2歳王者に輝いた。
レース後に田中淳司調教師は「北海道の2歳は強いと言われながら、なかなか勝てなかったので嬉しいです。まだまだ北海道には強い2歳馬がいます。応援よろしくお願いします」と、コメントを残している。ホッカイドウ競馬のファンや関係者など、皆の思いを背負っての出走、勝利だったのだろう。鞍上の宮崎騎手共々、嬉しさの中に見せた安堵の表情がとても印象的だった。
2歳時はダートなら5戦無敗。同世代の中で圧倒的なパフォーマンスを発揮したハッピースプリントは、2歳馬では史上2頭目となるNARグランプリ年度代表馬に選出された。翌年には大井に移籍し、南関東の牡馬クラシック路線を席巻。4歳になった2015年にはJpnIで2度3着に入り、秋には浦和記念を優勝。生涯2度目の年度代表馬に選ばれた。
その後は、蹄が変形していく病気と戦いながらも現役を続行。一時は活躍の場を故郷・ホッカイドウ競馬に移したが、再び南関東へと戻り、2019年9月に大井競馬場で行われたマイルグランプリトライアル3着を最後に引退した。現在はイーストスタッドで種牡馬として新たな生活を送っている。
今年の全日本2歳優駿にはホッカイドウ競馬から5頭が出走。全国の重賞で好走続くスペシャルエックスを筆頭に、船橋の平和賞を制したプルタオルネ、JBC2歳優駿で見せ場たっぷりの走りを見せたリアルミーなど何れもチャンスがありそうな素質馬ばかりだ。北の大地に再びビッグタイトルを届けることが出来るか。熱戦に期待したい。