悲劇が起こったのは5月4日。青森県階上町にあるワールド
ファームの生産馬・
ハヤテノフクノスケ(牡4歳、栗東・中村)が、勝てば1978年のグリーングラス以来、47年ぶりとなる青森県産馬による天皇賞・春制覇を懸けて出走した。残念ながら11着に終わったその夜、生まれ育った牧場が、漏電により火災に見舞われた。厩舎2棟と事務所が全焼。馬は全頭無事だったが、わずか15分間、目を離した際の出来事だった。
フクノスケの晴れ姿を京都へ見に行っていたワールド
ファームの村上百合子代表は、ホテルで悲報を知ったという。「『火災でみんななくなっちゃったよ』って。帰り道もすごくツラかった」と話すと、村上幹夫場長も「もう何もなくなったんで…燃えちゃって。これからどうなるのだろうっていう不安な気持ちしかなかった」と明かす。現在、繁殖牝馬と当歳は交代で残った馬房を使用し、1歳馬は牧場に放し飼いにする“青空放牧”を続けるなど、一丸となって乗り越えようとしている。
今年は繁殖牝馬の受胎率も悪く、10頭中4頭しか受胎できなかった。幹夫さんは「今までこういうことはなかった。炎を見ちゃった影響じゃないかな…」と不運の連続に肩を落としたが、そのなかで5月18日にフクノスケの全弟が誕生した。火災から2週間後の出産で「お産の道具も燃えちゃって、何とかかき集めた」と苦労をにじませたが、牧場希望の星はすくすくと成長中。兄に似た大きめの牡馬で、少しシャイだが、私が持つカメラには興味津々で近づいてくるなど愛嬌(あいきょう)たっぷりだった。
周囲の人に勧められて牧場再建のためのクラウドファンディングを実施。設定した目標額2000万円を、プロジェクト終了2日前の29日に突破した。全国のフクノスケファンからは火災直後から配送車2、3台分の支援物資が届けられた。百合子さんは「ありがたいですね。ジャンパーとか長靴とかバケツとか。いろんなものが送られてきました」と感謝しきり。7月の函館記念で
ハヤテノフクノスケが2着に健闘すると支援者が急増。幹夫さんは「“フクノスケさまさま”ですね」と牧場のエースにも救われたことを喜ぶ。
春のクラシック戦線には出走できなかったが、レベルの高いメンバーがそろった菊花賞で8着。その後2連勝して、天皇賞・春に挑戦するまでに成長したフクノスケ。とねっこ時代について、幹夫さんは「生まれた時から大きい馬。当歳馬の中に1歳馬が1頭混じっているみたいな感じ」と振り返る。恵まれた馬体に期待も大きく「気性ものんびり屋さんで全然手が掛からなかったんですよ」と目を細めた。
次走は横山和生騎手とタッグを組み、札幌記念(8月17日・札幌)で重賞初制覇を狙う。2人は「うちの牧場で久々に出てきたG1出走馬だから、この子にはワクワクしている。期待しています」とにっこり。青森の星・
ハヤテノフクノスケ。勝ってふるさとの再建に力を添えてほしいと、青森県出身の記者も強く願っています。けっぱれ、フクノスケ!(デイリースポーツ・野里美央)