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ダービーのゲートで『行かないで』…心の成長を見守り/馬と人の絆(4)

2013年08月23日 18:50

今村美佐子厩務員と、顔を寄せて甘えるヒラボクディープ(撮影:赤見千尋)

 2013年夏の特別企画。担当馬に愛情を持って接している厩務員さんや調教助手さんと愛馬との「絆」をお届けします。普段なかなか知ることのできない、競馬の舞台裏。トレセンで日々取材しているライター陣が、とっておきの温かいエピソードをリレーでご紹介します(8月の毎週金曜公開)。今週はコラム「おじゃ馬します!」「競馬の職人」でお馴染みの赤見千尋さんです。

 今年の日本ダービー。青葉賞を勝って挑んだヒラボクディープは、13着に惨敗。担当厩務員の今村美佐子さん(美浦・国枝栄厩舎所属)は、5日間夜布団の中で泣いたという。蛯名正義騎手から「返し馬が一番緊張する」と言われるほどのやんちゃな愛馬。その素顔を語ってもらった。

―やんちゃ坊主―

「人を振り落すのが本当に上手で(笑)。人が乗ると、何とかして振り落そうとするんです。ずっと暴れてるんじゃなくて、ここぞという時に尻っぱねして。蛯名さんも内田博幸さんも落とされました。普段は大人しいんですけど、調教の途中に馬場内で移動する時にやるんです。もう、尻っぱねの次元が違いますね。尻尾が乗ってる人の後頭部に当たるらしいですから。

それで落とすと、『ひゃっほー』みたいな感じで嬉しそうにお家に帰って行くんです。『俺、やってやったぜ』みたいな満足した顔になってて。相当頭いいですよ。

特に青葉賞を勝った後は、ダービーという大きな目標に向けて毎日攻めて、カイバもいっぱいあげていたので、より激しくなりました。尻っぱねすることに生きがいを感じてるなと(笑)。それに、青葉賞を勝って自信がついたみたいで、自分より後から来た馬に対して急に威嚇するようになったんです。もともとは他の馬が怖いタイプだったのに、ずいぶん強気になったなって思いました」

―子供のように―

「蛯名さんからも言われてて、しつけをちゃんとしないといけないなと。もう自分の子どもみたいな感じなので、人様に迷惑をかけないように、ジョッキーに乗ってもらって怒られないようにと。

ただね、ホント悩むんですよ。怒っていうこと聞くならいくらでも怒りますけど、今までこの仕事をして来て、馬にも自信が必要みたいで、怒り過ぎても良くないので。前に一頭見たことがあるんですけど、すごく大人しくはなったんですが全然走らなくなった馬がいて。人間のスポーツ選手でもそうですけど、何かこう燃え上がるようなものがないと。あんまり押さえつけ過ぎちゃうとダメなので、ちょうどいいところを目指してます。わたしが怒ると、『ごめん』みたいな表情するし、ビビった顔して『やばい』って感じになったりするので。馬の表情を見ながら、様子を見て怒ってます。

ダービーの前にみんなで話し合って、青葉賞を勝ってすごい自信を持ったんでね、一生に一度だから、自信を持って向かってもらいたいと思って。その自信を削がないようにしました」

―第80回日本ダービー―

「今年新設されたベストターンドアウト賞を目指して、なるべく審査基準に沿うようにしたんですけど。審査基準は、まずは人と馬の絆。信頼関係ですね。人間を信頼して、お利口さんにしてることです。だから、強い矯正道具はもっての外って言われてました。この馬はパドックでメンコとリップチェーンを付けてますから、そもそも獲るのは難しかったんですけど。でも、馬主さんやファンの方々にキレイなところをお見せしたくて、やれることをやって目指してみようと。ヒラボクさんの勝負服ってひし形なんで、ひし形をお尻にマークしたんですけど、装鞍所でグルングルン回っちゃって、砂埃で真っ白になって…。慌ててみんなで拭いたから、マーキングがなくなっちゃったんです(笑)。

パドックは2人で曳いてて、リップチェーンの効果で途中までは良かったんですけど。途中から効きが悪くなったのか興奮してきて。『ウオー』って感じになっちゃいました。

さらに一番の問題は返し馬。返し馬で放馬しないことがまず大事なんです。ダービーの前には、夢に返し馬が出て来ましたから(笑)。嬉しいことに厩舎の人が馬場に5人来てくれたんです。右に3人左に2人で構えてて、もし放馬した時にすぐ捕まえられるようにって。みんなスーツ姿で。本当に有難かったですね。

そこで上手く行ったのでホッとしたんですけど。今度はゲートに入って、わたしが離れる時に急に『ブフブフブ』って鳴いちゃって。もうね、怖かったみたいなんです。あの歓声とか雰囲気が。急に、わたしと一緒に帰りたいみたいな態度を取って来て。『行かないで』みたいな。わたしがゲートの下から出た時に、潜るのが一番危ないから、『しっかりしろ!』って感じで突き放したんですけど。

気持ちを上げる方向で行ったから、競馬場に着いた時点で上がってて、パドックで突き抜けちゃって、ゲートで怖くなっちゃったみたいで。ダービーは心の底から勝ちたいと思ってたし、蛯名さんにも勝って欲しかったです。厩舎みんなで喜びたかった。ホント、難しいです」

―再始動―

「もう厩舎に戻って来てて、秋はセントライト記念から使う予定です。放牧は2か月だったんで大きくは成長してないですけど、やっぱり成長した部分はありますね。性格はちょっと落ち着いたかな。また攻め馬をきつくして、カイバも増やしていったら出てきそうな気はしますけど。そういう予定で対処できるようにしてます。アイツの顔を見てると、そんな気がするんです。目が変わってないですもん。

春は気持ち的に強い面と脆い面があって。乗ってる人をコケにしといて、スタート直前になって帰りたいって、『おいおい、いつもの強気はどうしたんだよ!』って感じでしたから。そこは成長して欲しいですね。競馬に行って、『俺がんばる!』みたいなところがないと。ちょっとそこが弱いんです。

人間もそうですけど、成長するのには時間がいるんですよね。たった2か月で一気にっていうのは難しい。体の成長はバーンとなるけど、心っていうのはなかなかね。長い目で見たいですね。自信ついたり無くしたりを繰り返して成長すると思うんです。人間はどうしても、早く早くって思っちゃうけど。そういうところも大事に育ててあげたいです。

わたし自身、この馬で初めて重賞に出させてもらって、しかも勝たせてもらって。こういうチャンスはなかなかないので、一緒にGIを獲りたいです!」(取材・写真:赤見千尋)

■今村美佐子
昭和50年7月27日生まれ。福岡県太宰府市出身。動物が大好きで、厩務員ならずっと馬と一緒にいられると知って競馬の世界へ。平成9年にトレセンに入り、現在は国枝栄厩舎所属。

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