1999年の天皇賞・秋は前走7着から巻き返したスペシャルウィーク(左)が勝利(撮影:下野雄規)
豪華メンバーが顔を揃える、今年の天皇賞・秋。そのなかには、敗戦からの巻き返しを期す馬もいる。1999年も見事な復活の勝利をあげた馬がいた。「平成天皇賞・秋 名勝負列伝」、今回はスペシャルウィークを振り返る。
■素晴らしい末脚で天皇賞春秋連覇
1999年秋。スペシャルウィークは秋緒戦の京都大賞典で7着に惨敗した。17戦10勝という素晴らしい競走成績のうち、唯一馬券圏内を外したレースである。スペシャルウィークを管理した白井寿昭調教師は、のちに「スペシャルウィークは暑さに弱い馬だった」と語っている。このときも夏負けが尾を引いて、満足な調教ができなかったのだ。また、夏負けの兆候は休養前の宝塚記念で、グラスワンダーに3馬身差をつけられ2着に敗れたときから見られたという。余裕残しの仕上げにせざるを得なかったことで、宝塚記念は480キロ、京都大賞典は486キロという馬体重での出走となっていたのである。
しかし、京都大賞典後も状態が上向く気配はなかった。直前の追い切りでも、追走の形とはいえ500万条件馬との併せ馬で遅れてしまう。陣営は状態を戻すべく、当日の朝までハードに攻め続けた。その結果、前走より16キロ減の470キロでパドックに姿を表した。
それでもファンの評価は、キャリア15戦目で初めて、そして生涯で唯一となる4番人気まで落としている。ただ、上位人気を見ると、前年のクラシック二冠馬セイウンスカイ(3.8倍)、2連勝の上がり馬ツルマルツヨシ(6.0倍)、前年の天皇賞・春の覇者メジロブライト(6.8倍)、スペシャルウィーク(6.8倍)、この年の安田記念優勝馬エアジハード(8.3倍)で、混戦模様でもあった。
1番人気のセイウンスカイがゲート入りを嫌がり、場内がどよめくなかゲートが開く。アンブラスモアが逃げる流れは、1000m通過が58.0秒。セイウンスカイは中団後方、その直後にツルマルツヨシ、そしてスペシャルウィークは後方4番手、その後ろをメジロブライトが追走する。直線を向き、縦長の隊列を引っ張ったアンブラスモアは残り200mまで粘るが、ステイゴールド、エアジハード、スティンガーが内から伸びてこれを交わす。さらに、セイウンスカイも外からじりじりと差を詰める。ここで大外から飛んできたのがスペシャルウィークだった。馬体を併せてセイウンスカイを抜き去ると、アンブラスモア、エアジハード、スティンガーを交わし、最後に内の叩き合いから抜け出していたステイゴールドも捕らえてゴール。
わずかクビ差の勝利ではあったが1:58.0は当時のレースレコードで、1988年のタマモクロス以来2頭目となる天皇賞春秋連覇を達成した。
レース前、武豊騎手に秘策があるといわれたが、それは「好位からの競馬では気持ちが続かなくなっているので、今回は後ろから勝負する」だった。その通り、道中は後方に控え、直線で大外へ持ち出されると末脚を爆発させたのである。武豊騎手に導かれたスペシャルウィークは、見事に復活を遂げた。