さあ、25日は暮れの大一番、第67回有馬記念・G1(中山競馬場・芝2500メートル)だ。来年3月に調教師へ転身する福永祐一騎手(46)は、菊花賞2着馬
ボルドグフーシュで参戦する今年が最後の
グランプリ。18日には連続年間100勝の記録を13年連続に自ら更新したトップジョッキーが、自身そして父も手にしていない栄冠をつかむ。
* * * *
新しい景色を求め、集大成の舞台に立つ。来年2月末で引退する福永にとって、今回は最後の
グランプリ。まだ勝利を手にしていない大一番に、今年は3歳馬の
ボルドグフーシュとのコンビで挑む。「うれしかった。よかったという感じ。最後の有馬、乗り馬なしなら寂しいなと思っていた。しかも、菊花賞2着で力のある馬やしね」と穏やかな笑みを浮かべた。
近いようで遠い世界だった。これまでJRA史上3位タイのG1・34勝を誇る名手だが、デビュー27年目で有馬記念騎乗は13回と多くない。成績も
トゥザグローリーに騎乗した11年の3着が最高だ。「俺はマイルとか(で活躍する騎乗馬)が多かったから、使う馬が少なかった。最近やもん、長いところを勝ち出したのは。(有馬は)乗ることが難しかった」。その言葉通り、史上4人目となる八大競走完全制覇への“ラストピース”として残っている。
元騎手の父・洋一さんも勝てなかった暮れの頂上決戦に初めて足を踏み入れたのは、キングヘイローに騎乗したデビュー3年目の1998年。パドックからは独特の熱気が伝わり、返し馬では全馬に大歓声が湧き起こった。「有馬はめちゃくちゃ盛り上がる。乗っていないと、まぁ寂しい。有馬は特にね。裏開催で乗っていると、特に寂しい気持ちになる」。多くの経験を積み重ねてきたベテランにも特別な舞台だった。
8日の調教師合格会見では「たくさんの方がこれまでずっと応援してくださっているので、残された期間、一人でも多くの方に見ていただけたら」と口にした。その思いを体現するには、有馬記念はこれ以上ない舞台だ。初コンビの
ボルドグフーシュには先週の追い切りで騎乗し、感触を確かめた。「長くいい脚を使えそうな感じ。それが生きるような流れになってくれればいいですね」。冷静な頭脳が描く“有終V”への青写真。27年分の感謝を手綱に乗せ、ラスト
グランプリに全てを注ぎ込む。(山本 武志)
◆八大競走 皐月賞、日本ダービー、菊花賞、桜花賞、オークスの五大クラシック競走に天皇賞・春と天皇賞・秋、さらには有馬記念を合わせた8レースの呼称。騎手では過去に保田隆芳(引退)、武豊、ルメールの3人が完全制覇している。
◆福永洋一氏の戦歴 1968年に騎手デビュー。デビュー3年目の70年から78年まで9年連続で年間リーディング騎手。79年毎日杯の落馬事故により81年に引退。通算983勝。2004年に騎手顕彰者として、JRAの殿堂入り。有馬記念は4度騎乗し、74年のホウシユウエイトによる4着が最高。
◆
ボルドグフーシュ 父スクリーンヒーロー、母ボルドグザグ(父レイマン)。北海道千歳市・社台
ファームの生産。栗東・宮本博厩舎所属の牡3歳。通算9戦3勝。総獲得賞金は1億2984万8000円。重賞は菊花賞・G12着(22年)が最高。馬主は(有)社台レースホース。