幼少期から何度も足を運んできた阪神競馬場。今春には大きく
リニューアルされ、より幅広い年代の人々が競馬を楽しめるような工夫が多く施された。家族連れや若い女性の来場者も目立ち、ますます熱を帯びていく競馬界。ただ、そんな盛り上がりと反比例して、馬業界は深刻な人手不足に陥っている。仕事内容の特殊性、知る機会の少なさから、ゴールにたどり着くまでの道筋が不透明になってしまっている人も多いのではないだろうか。
そんな現状のなか“馬業界への間口を広げたい”という思いを胸に、情熱を注いで活動をしているのが、友道厩舎で調教助手を務めている大江祐輔さんだ。栗東トレセンで競走馬との日々に奮闘する傍ら、馬に関わる仕事に興味を持つ人々が、一歩を踏み出すための手伝いをしてきた。以前、乗馬大会で行われた馬業界についての説明会に密着させていただいたが、真剣なまなざしの学生たちが熱心に質問する姿がとても印象的だった。
さらに、現在は『高校に馬術部をつくる』という新たな挑戦に取り組んでいるそうだ。昨年、滋賀県の光泉カ
トリック高校に部を設立。1年ほど前から計画については伺っていたのだが「本当に馬術部までつくってしまうのか…」と大江助手の底なしの熱量に圧倒された。
「2年間プランを練ったり、学校側と話をさせていただいて準備してきました。これまで乗馬をしていた子が、高校に部活がないという理由で馬の道から離れていってしまうケースがとても多い。馬術を続けられる環境をつくりたいと思っていました」と大江助手。「続けることで将来につながっていく場合もありますし、人材育成や進学支援の一環にもなるのではないかな」。馬術部設立の裏には、一人一人の“可能性”を広げたいという強い思いが込められているようだ。
新設した馬術部は、6月3日に奈良県天理市のクレインオリンピックパークで開催されたインターハイ近畿地区予選に出場。同じく滋賀県にある比叡山高校との合同チームとして団体戦に挑み、見事にインターハイへの切符をつかみ取ったのだ。近年は団体を組む人数に満たない高校同士がタッグを組み、一団体として大会に出場できるのだとか。「馬や練習する場所を用意するのはなかなか難しいですが、それぞれの場所で乗馬をしている子たちが高校の馬術部に在籍することで、大会に向けての活動を支援していくことができます。一度枠組みをつくってしまえば、また誰かがやりたいと言った時にサポートができるのでは」。少しでも誰かの力になるため、常に試行錯誤を続けている。
大会終了後には説明会を実施。ただ以前とは違って、今回は“馬術部の監督”というさらに馬術界の内側に踏み込んだ立場での参加。「これまではどうしても一歩近づいてもらいにくい距離感や空気感があるような気がしていました。今回は監督会議などで以前から他の高校の監督とはコミュニケーションを取れていましたし、保護者の方々との距離も近かったように感じました。なかには選択肢が増えたと言ってくださる方もいて、引き続きやっていくことに意味があるなと思いました」。改めて、この活動が持つ意味を実感していた。
活動を本格化させてから約4年。徐々に思いは浸透していき、サポートしたいと言ってくださる方も増えてきたという。「競馬場で声をかけてくださったJRA職員の方が、以前に僕の説明会を聞いてくださっていたということがありました。何かしら進路のきっかけになったり、後押しになったりしていたら、やっぱりうれしいですね。継続してこの輪を広げていきたい」。一人でも多くの人の背中を押すことができるように-。ホースマンとして現状に真正面から向き合い、これからもサポートを続けていく。(デイリースポーツ・小田穂乃実)