競馬界屈指の難曲“札幌・函館重賞ファンファーレ” 今年挑んだプロ奏者・吉田梨紗さんに聞く「2つの難しさ」

2025年08月13日 18:00

函館競馬場で演奏した東京トゥインクルファンファーレ(提供:TCK(東京シティ競馬))

 競馬ファンに“プペペポピー”のフレーズで知られる札幌・函館重賞ファンファーレ。プロであっても手ごわい一曲だというが、今年6月に函館競馬場で披露した「東京トゥインクルファンファーレ」は、美しいメロディーを奏でて話題になった。難曲に挑んだプロの心境や裏側はいかに。演奏を担当した吉田梨紗(よしだ・りさ)さんにとって、3カ月にわたり細やかな努力を重ねた結果だった。

 東京トゥインクルファンファーレ(以下、TTF)は、2011年から活動をスタートさせた。現在は主に大井競馬場のナイター開催時、後半3レースのファンファーレ生演奏を担当している。吉田さんも加入から約8年のベテラン。音楽の青春映画『スウィングガールズ』がきっかけで、中学生からトランペットを始めた。その後、茨城県内の高校の音楽科を経て、東京音楽大学を卒業。その道20年になるトランぺッターとして、現在は幅広く活躍している。

 そんなプロが及び腰になってしまうほど、札幌・函館重賞ファンファーレは難易度が高い。吉田さんも「全国のファンファーレを吹いてきましたが、ナンバーワンの難しさ」と話す。函館競馬場で演奏する話が決まると、3カ月以上も前から準備を始めた。

「YouTubeで曲を聴いたり、イメージをしていました。作曲を担当されたのが『エヴァンゲリオンシリーズ』を手がけた鷺巣詩郎さん。オリジナル音源を演奏しているのは有名なトランぺッターの数原晋さん。それだけプロフェッショナルな方々が関わった楽曲だから、より高いクオリティを求められる。競馬ファンの方々が何度も耳をしている音源に、少しでも近づけるようにと必死でした」。プレッシャーを感じた当時をそう思い返した。

 具体的にこのファンファーレの難しさはどこにあるのか。吉田さんは「ピッコロトランペットのソロパートから始まる緊張感」「メロディーが大きく変化する跳躍進行」と音楽的要素2つに加え、「気温や天候の変化」「自分たちのタイミングではなく、スターターの合図にあわせて曲が始まること」と競馬ならではの理由を2点挙げた。

 だが何より、耳を傾けるファンが「無事に成功するだろうか」と心配そうな雰囲気だったのも印象に残ったという。いっぽうで、「そういう音楽、場面であっても、そつなく演奏するのがプロだと思っているので、あまり難しいと言ったらいけないですね」と引き締まった表情を見せた。

 当日は多くの人びとが固唾をのんで見守る中、さわやかなメロディーが空に吸い込まれていった。拍手、歓声に送られて引き上げると、陰で思わず大きなガッツポーズ。メンバー全員が達成感に満ち、また安堵した。TTFのすばらしい演奏はSNSでも大きな話題となり、吉田さんにもたくさんの反響があった。

 音楽に決して詳しくない友人からも「感動した」や「よかったよ」などの連絡があったといい、帰京後には同業者から声をかけられる場面も。「普段から『いつも見ているよ』と言われることは多かったのですが、演奏内容に対してリアクションをいただくことはあまりないので、驚きましたし、嬉しかったです」と笑顔を浮かべた。

 TTFは8月10日(日)のレパードS当日にも、新潟競馬場でファンファーレを吹いた。活動は徐々に広がり、大井、南関東だけではなく、全国で目にする機会が増加。吉田さんは「色々なところで演奏できるようになったのは、私たちメンバーだけではなく、スタッフや関係者の方によるPR活動の積み重ね。演奏で恩返ししていきたい」と感謝を口にする。

 今後については、「私たちをきっかけに競馬を知ってもらいたいし、逆に競馬ファンの方にファンファーレや音楽のことを知ってもらいたい」とし、「TTFは女性だけで演奏しているのも魅力や誇り。これから音楽の道に進む若い女の子にとって、目標や選択肢のひとつになれたら」と熱く語った。“相棒”ともいえるトランペットを片手に吉田さんの挑戦はまだまだ続く。

新着ニュース

ニュースを探す

ご意見・ご要望

本サービスはより高機能なサービスの提供なども検討しております。お気づきの点がございましたらお気軽に下記フォームよりご意見をお願いいたします。

  • ご意見をご記入ください。

頂いたご意見には必ずスタッフが目を通します。個々のご意見に回答できかねますことを予めご了承ください。
また、連続して複数送信されると、受付できないことがあります。予めご了承ください。