「札幌記念・G2」(17日、札幌)
青森の期待を一心に背負った馬がいる。レコード決着となった函館記念で2着と奮闘し、札幌記念で重賞初制覇を目指す青森県産馬の
ハヤテノフクノスケ(牡4歳、栗東・中村)だ。今回はこの馬のルーツとも言える父
ウインバリアシオン(牡17歳)に会うため、種牡馬生活を送る青森県東北町にある荒谷牧場を訪ねた。
希代の3冠馬
オルフェーヴルと同世代で、幾度となく死闘を繰り広げてきた
ウインバリアシオンは現在、青森県東北町にある荒谷牧場でけい養され、種牡馬生活を送っており、年間約30頭に種付けをしている。
同馬を所有するス
プリング
ファームの佐々木拓也さんは、種牡馬としてのポテンシャルを高く評価。「どんな繁殖牝馬が来ても持て余さない。どんなに暴れてどうしようもない子にも、スッと乗ってサッと終わるから『種付け神』と呼んでいます」と、いい種牡馬の条件となる繁殖牝馬の扱いのうまさもピカイチだ。
産駒の成績も好調。活躍頭の
ハヤテノフクノスケには「前走の函館記念はレコード決着のなかでの2着なのですごく価値があると思う。元々当歳の時から、古馬になってからの方が動きそうと話していたのでこれからが楽しみ」と声を弾ませる。
そんな優等生種牡馬がなぜ青森に来たのが-。かつてダービー馬を輩出した青森の馬産を盛り上げるための一矢として、新種牡馬の導入を検討していたところ、
ウインバリアシオンが15年の天皇賞・春で引退するというニュースが目に留まった。連絡を入れた時には既に
オーストラリア、韓国、北海道のスタリオンからオ
ファーがあったと知り、諦めかけていたところに青森行き決定の電話を受けた。「もう大喜びでした!ただ、来てからは脚があの通りで…」と、引退の引き金となった浅屈腱不全断裂に悩まされた。
来県当初の
バリアシオンの脚は「もうゾウの足みたいにパンパン」と当時を振り返る。どの獣医に見せても有効な治療法を得られなかったが、「何とかして
バリアシオンを種牡馬にしないと意味がない」と民間療法に挑戦。患部の熱を取るため「トチの実を25度ぐらいの焼酎につけ込んだものを脚に綿で巻いた」と試行錯誤。1日に何度も巻き直しが必要だったが、湿布剤よりも熱が早く逃げていったという。蹄にはまさかの豚肉の冷凍ミンチを採用。「蹄底に詰めて巻いて…数分で表面が冷たくなったら、すぐに脚を上げて取り除く」。半年間、惜しみない愛情を注ぎ、ようやくきれいな脚を取り戻した。
実はリンゴ嫌い
昨年末には人気育成シミュレーションゲーム「ウマ娘」のキャラクターとしても登場。現役時の勝負服と同じ赤を基調とした衣装に、リンゴが好きというキャラ設定だが、「青森に来てリンゴのイメージが強い方が多いかと思いますが、残念ながら嫌いです」という。高級品種「ふじ」を与えたところ、「においを嗅いだら『もういらない』って。酸味が好きじゃないのかな。本当は甘党かも」と意外な一面を明かした。
言葉の通り、記者が持参した甘いにんじんは、1本そのままガブリ。「にんじんには目がないというか。にんじんがあれば幸せですね」と笑う佐々木さん。にんじんを与えるのが初めての記者に気を遣ったのか?大きなにんじんは鉄パイプに叩きつけて細かくして食べていた。父の優しくのんびりとした性格をそのまま受け継いだフクノスケ。父へ、産駒の重賞初制覇を届けてほしい。(デイリースポーツ・野里美央)