美浦トレーニングセンターでは15年から厩舎改築工事を行っており、新たに生まれ変わっている。全4期のうち3期工事までが終了し、10月1日から運用が開始される新競走馬診療所の内覧会が25日に行われた。
 トレセンに出入りするようになってから約30年となるが、競走馬診療所については何も知らなかったので、説明を聞いて驚くことばかりだった。新診療所は従来のものより規模が拡大。これまで19だった入院馬房は30まで増加し、それ以外のものも
スケールアップした。
 新しくなったのは建物だけではない。中身も充実しており、最新の検査機器が導入され、馬用としては国内で初となる新たな施設が誕生した。それはRI(ラジオ
アイソトープ)検査施設だ。RI検査は放射性医薬品を体内に投与して撮影する検査法。投与する薬剤は骨の炎症部に蓄積する性質があり、エックス線、
エコー、MRI検査では分からない微細な骨折や、これまでは発見できなかった体の深部の骨折などを発見することができる。
 海外では一般的に行われる検査法だが、日本では法律上の問題で実施することができなかった。それが09年の法改正によって可能となり、診療所が
リニューアルするこのタイミングで導入することになった。競走馬診療所の山中隆史所長は「これまでは獣医師が触って異変を察知していたが、この検査法なら画像によって、より正確な情報を得られることができます」と説明する。テストなどを経て、同検査の本格運用は年明け以降になる見込みだ。
 今回はこれに加えてCT検査機も導入された。以前からあるMRI検査機も含めると、かなり充実した最新の検査機器がそろったことになる。これだけの検査機器がそろった施設は国内では他になく、世界規模でもトップクラスだ。山中所長は「このように検査機器が充実したことで、今まで分からなかったことが分かるようになります。ちょっとした異変に気がついて、事故を未然に防げます。幻かもしれませんが、われわれは事故発生の0%を目指しています。これらの機器はそれに近づくために役立つものだと思っています」と力を込める。競走馬医療の技術進歩を肌で感じることができた取材だった。
 10月5日に凱旋門賞が行われ、日本からは
アロヒアリイ、
クロワデュノール、
ビザンチンドリームの3頭が出走する。今は日本馬が海外G1に出走するのが当たり前の時代で、世界からも認められている。日本馬がこれだけの地位を築けたのは、日本競馬に携わる全ての人の努力があってのものだが、そのなかであまり表には出ないが、競走馬医療も重要な役割を担ってきたのだろう。そんなことを山中所長の話を聞きながら、ふと思った。(デイリースポーツ・小林正明)