10月12日からスタートするTBS系日曜劇場「ザ・
ロイヤルファミリー」(午後9時)の原作者である作家の早見和真氏が、このほどスポーツ報知のインタビューに応じた。日本ダービーや有馬記念の際に本紙にエッセー「また満員の競馬場で」を寄稿している同氏が、競馬を舞台にした原作のドラマ化に対する思いや、続編の構想などについて語った。(取材・構成=牧野博光)
―「ザ・
ロイヤルファミリー」が上梓された2019年当時、早見さんから「JRA賞馬事文化賞と映像化を狙いたい」という趣旨の発言があったと記憶しています。
「映像化に関しては、自分が書いてきた全物語の中で一番スケールが大きくて、映画で2時間というイメージが湧かず、ドラマになるとしても枠は限られるだろうとは思っていました。ここまでたどり着けたのは本当にありがたいですし、日曜劇場という、一番いい形で着地できたのでうれしいです」
―ドラマ化された際は必ずしも原作通りにならないケースも見かけます。
「大前提として、僕は原作と映像が必ずしも同じ物語である必要はないと思っています。仮に馬が1頭も出てこなかったとしても、僕が小説でもっとも伝えたかったことが映像で伝わるのであれば、そちらを優先していただきたい。大事なのは、どれだけ
リスペクトを持って原作と向き合ってくれているかということ。その意味では、今回のスタッフ、キャストの皆さんを僕は全面的に信頼しています」
―今回のドラマ化に際して、原作者としてはどのように関わっていますか。
「自分の作品で映像化されたのは10作品ぐらいありますが、とくに今回は原作者としての僕に積極的な
コミットを求めてくれる座組でした。もちろん僕にキャスティング権などありませんが、こちらの要望をおそらく聞き入れてくれたうえで、僕が盟友だと信じている方にご出演いただけたのは光栄に思います。喜安浩平さんが書いてくれた脚本も本当に素晴らしいので、間違いなく面白い作品になると思います」
―ネットでは、馬主の山王耕造がどのオーナーをモデルにしているかが争点になっています。
「ひとつだけ明確に言えるのは、モデルにした特定の人物はいないということです。読者の方からは『
フサイチ』の関口(房朗)オーナーという声が非常に多くて、2番目が『アドマイヤ』の近藤利一オーナーでした。山王耕造という馬主を造形するにあたっては、10人ぐらいの馬主さんから実際にお話を伺いました。それを半年ぐらい自分の中で寝かせて、その上で立ちのぼってきたのが山王耕造というキャラクター。お話を聞かせていただいたお一人は、先日お亡くなりになった『メイ
ショウ』の松本好雄オーナーでした」
―その松本オーナーとのやりとりが原作にも反映されているのでしょうか。
「小説の中に、実際の僕の質問とメイ
ショウさんの答えが反映されている箇所があります。インタビュー後に松本さんと食事をした際、『僕が死ぬまではインタビューの内容を公にしないでください』と言われました。おそらく僕が小説で使わせていただいたある一言が理由なのだろうと思っています」
―原作でメインとなる舞台は有馬記念です。
「そもそも僕が一番好きなレースが有馬記念です。年の瀬の差し迫った感じと、付随する物悲しさ、切ない西日の感じ、ターフに長く伸びる影…。一番大事なのはダービーかもしれませんが、向かっていく先は必然的に有馬記念になりました。あこがれの作品である宮本輝さんの『優駿』がダービーを目指す物語だということも関係していると思います」
―今回の撮影にはJRAが全面的に
バックアップしてくれています。
「とくにこの件に関しては馬事文化賞をいただいていて良かったと思いました(笑)。小説を書いたときから当時の広報の方も含めてJRAにすごく協力していただきました。このドラマをきっかけに競馬ファンが増えてくれたらJRAに対しても恩返しできるかなと思っていますが、僕個人としてはすでに馬券で恩返しは済んでいると思っています!」
―原作の続編を期待する声も挙がっています。
「僕の中で『ザ・
ロイヤルファミリー』という作品はすでに完結していますが、あるオーナーから『血は続いていくという物語を書いたんでしょう? ならば、続編を書かないといけないんじゃない?』と言われたのがなんとなく心に引っかかっています。そうした中で、今年競馬界を駆け巡ったとあるニュースに、僕は関心を抱きました。そのニュースと『ザ・
ロイヤルファミリー』が結びつきそうだという予感があるんです。もし続編を書きたいと思う時が来たら、どのように血を後世に伝えていこうとしているかをしっかり取材した上で考えようと思っています」
―ドラマ開始を前にすでに秋のG1シーズンが始まっています。
「この秋は競馬が盛り上がりそうな気配を感じていますし、当然、有馬記念は盛り上がってほしいです。騎手で言えば呪縛の解けた三浦皇成騎手がもう一つ二つG1を取る気がしますし、馬主という視点で見れば
メイショウタバルに注目しています。僕の一口愛馬である
ロードフォンスの期待がかかるので、この秋はそこにつながる活躍を祈っています」
◆早見 和真(はやみ・かずまさ)神奈川県横浜市生まれ。48歳。2008年に自身の経験をもとに野球部を描いた「ひゃくはち」がデビュー作。15年に「
イノセント・デイズ」で日本推理作家協会賞受賞。競馬を舞台に描いた「ザ・
ロイヤルファミリー」は19年JRA賞馬事文化賞&20年山本周五郎賞受賞。「アルプス席の母」は今年の本屋大賞2位。