◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
秋のG1シーズンが開幕した。9月28日に行われたスプリンターズSは、三浦皇成騎手(35)が11番人気の
ウインカーネリアンを導き、127度目の挑戦でJRA・G1初勝利を挙げた。デビュー18年目の苦労人の悲願達成の裏で、またしても涙をのんだ馬がいた。
ナムラクレアだ。
重賞5勝を挙げる6歳牝馬。輝かしいキャリアの唯一足りないのは
ビッグタイトルのみだった。戦前までのG1通算成績は、9戦で2着3回、3着3回と惜敗続き。長谷川調教師の「G1を勝たせないといけない馬。何とかタイトルを取らせてあげたい」という言葉は、チャレンジを重ねるごとに重くなっていった。
今までの1・5倍の調教量を課すこん身の仕上げを施して臨んだ大一番は、直線で前の馬が壁になり、スムーズに加速できなかった。それでも後方から猛追し、3年連続の3着。1、2着馬は逃げ残った2頭で“負けて強し”の競馬だったが、求め続けた勲章にはまたしても、届かなかった。展開、馬場など様々な要素が複雑に絡み合い、能力を100%発揮することは簡単ではない。競馬の奥深さを改めて感じた。
牝馬は繊細だ。一度、精神的に崩れると復調は容易ではないと言われる。あと一歩が遠い、苦しいレースばかり。「心が折れてもおかしくない。褒められるべき精神力ですよね」。困難な状況からでも諦めず、懸命に末脚を伸ばす姿には胸を打たれた。来年3月の高松宮記念がラストラン。最後の最後に、大輪の花を咲かせてほしい。(中央競馬担当・山本 理貴)
◆山本 理貴(やまもと・りき)2024年入社。現在、25年下半期の回収率1位。