今年で63回目を迎える伝統のG2戦。皆さんは「思い出のアルゼンチン共和国杯は?」と問われた時に、どのレースを思い浮かべますか?
 過去にはアドマイヤジュピタやスクリーンヒーロー、
トーセンジョーダン、
ゴールドアクター、
シュヴァルグラン、
スワーヴリチャードといったのちのG1馬を輩出しており、先を占う意味でも重要な一戦。しかし、その割には印象が薄く(あくまでも個人的な意見です)、初老の私は87年カシマウイングの勇姿が真っ先に頭に浮かんだ。
 ただ、昨年のこのレースはインパクト大。10番人気の低評価を覆して、8歳の白毛馬
ハヤヤッコが放った豪快な大外一気は、驚きとともに興奮や感動を覚えた。つかみどころがなく、予想も馬券も難しい馬だったが、あの一戦は馬券うんぬんを離れて、若者に負けじと頑張る古豪の奮闘に胸を熱くした。
 遅まきながら、テン乗りで見事にVへと導いた吉田豊騎手にあのレースを振り返ってもらった。「まず枠(2枠(3)番)が良かったですよね。国枝先生から『ある程度出して行って、いい所を取りに行かないと付いて行けないよ』と言われていましたが、促しても付いて行けなかったので、馬のリズム重視の策に切り替えました。あと、先生から『最後は外に出してほしい』とも言われていたので、直線は馬場の大外へ。切れるというタイプではありませんが、最後までグイグイと伸びてくれて。展開もうまく向きましたね」
 記録にも残る奮闘だった。斤量58・5キロでの勝利は88年レジェンドテイオー以来36年ぶり。8歳馬による勝利は85年
イナノラバージョン以来の快挙で、勝ちタイム2分29秒0は従来の記録を0秒9上回るレースレコード(芝2500メートルで施行された81年以降)。当然ながら、並の馬にできる芸当ではない。
 改めて、
ハヤヤッコの印象を聞くと「想像通りの馬でした。跳びが大きくて、体がしっかりしていて。もともとダートでも走れていましたものね」と父キングカメハメハ×母父クロフネの
パワーを感じたそう。また、次戦の有馬記念(15着)で暴走気味に走っていたシーンを思い出す方も多いと思うが、それには「1周目のスタンド前でお客さんの声援に反応してしまって。右回りではどうしても右にモタれてしまうし、結構、馬っ気もありましたからね。枠が内ならまた違ったと思いますが、外枠で難しかったです」と振り返った。
 競馬に“
タラレバ”は禁物だが、吉田豊騎手は「広い府中の左回りで、もうちょっと大きい所を走らせたかったです。自分で競馬をつくれませんが、追えば追うだけ伸びますし、馬場も荒れたら荒れただけいい馬。条件が合えば、まだまだ活躍できたと思います」と息の長い活躍を見せたパートナーをたたえた。
 駆け出しの頃、07年北九州記念で6歳馬のキョウワロワリング(11番人気)が“一発いわした”ことがあった。ヒーロー原稿を担当した私は、事実を羅列するのが精いっぱいだったが、他社の御大は古豪の一撃を『残照の輝き』と見事に締めくくっていた。そのワンフレーズこそ、昨年の
ハヤヤッコに贈りたい言葉。終幕迫った8歳馬の渾身の走りは、私の心に深く刻まれた。(デイリースポーツ・松浦孝司)