SNSの普及が進み、隣にいる友人だけでなく地球の裏側にいる誰かにまで同時に情報を発進できる時代に。記者自身、Xで馬の写真や動画を投稿しているが、たくさんの方からコメントしてもらい、多い時には1万以上の“いいね”を頂くこともある。改めてSNSの影響力や拡散力をひしひしと感じている。
際限なく情報があふれているからこそ、正しく扱うことができれば無限の可能性を秘めているSNS。そこに目をつけ、競馬界の情報を多く発信していこうと奮闘しているのが、開業2年目の小椋研介調教師(43)=栗東=だ。9月からYouTubeで厩舎の公式アカウントを開設。栗東の厩舎では初の試みだ。小椋師は「ファンの方が普段は見ることのできない部分を、どうにかして発信できたらなと思っていました。SNSならゼロからでも始められますし、厩舎に人気のある
テイエムスパーダがいて、今がそのタイミングなんじゃないかと。厩舎の知名度アップにもつながればと思っています」と経緯を説明。淡々とクールな印象のトレーナーだが、紡ぐ言葉の一つ一つに熱がこもっている。
チャンネル開設から約2カ月が経過。既に7本の動画が投稿されており、登録者数は現在約3100人と着実に浸透している。内容はさまざまな視点から展開されており、厩舎で過ごしている馬一頭一頭の紹介動画や、競走馬の“靴屋”とも言われている装蹄師の方への密着取材、さらには栗東トレセンから足を延ばし、放牧先での馬の様子など引き込まれるものばかりだ。
記者自身、更新を今か今かと楽しみにしているが、強く印象に残ったのが今月1日に投稿された“
テイエムスパーダの調教動画”だ。追い切りにまたがったジョッキー視点の映像で、追い切り単体だけではなく、厩舎からコースへ向かうまでのルートや追い切り前の運動、さらには…と、全てはここでは書き切れないが、とにかく臨場感たっぷりで見応えのある内容になっている。
「たくさんの方に見てもらえて良かったです。楽しんでくれているコメントを見るのは僕もうれしいですね」と指揮官。その半面、「今は競馬に興味を持っている方が多く見てくださっている印象ですが、全く興味を持っていない人たちの目にも留まってほしいなと思っています」と率直な気持ちを吐露する。「いろいろな意見がありますし、逆に自分たちの考えつかないようなことがあるかもしれません。こうした方がもっといろんな方に届くんじゃないか、という新しいことがあれば、どんどん取り入れていきたいです」。より幅広く、より多くの人に届けるために、試行錯誤の日々だ。
「僕自身、ゲームから馬の世界に興味を持ち、まだ本物の馬を見たことがなかった時から競馬界に入りたいと思っていました。僕はゲームでしたが、このYouTubeが誰かのきっかけになってくれれば」。動画のコメント欄で、“小椋厩舎の魅力を知ることができ、競馬がますます面白くなりました”というものを目にした。現場の温度をその身で感じているからこそ伝えられる思いがあるはず。次の更新はいつだろう。記者も既にファンになってしまったようだ。(デイリースポーツ・小田穂乃実)