◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断
欧州最強馬を迎え撃つのは日本の四天王だ。鈴木康弘元調教師(81)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第45回
ジャパンC(30日、東京)では
シンエンペラー、
クロワデュノール、
マスカレードボール、
タスティエーラの4頭を1位指名した。中でも達眼が捉えたのは
シンエンペラーの首と肩の筋肉。長期海外遠征で驚異的な進化を遂げた“新皇帝”が誕生するか。
水は方円の器に従うといいます。水は器の形に応じてその姿を変える。四角い(方)容器に入れれば四角形に、丸い(円)容器に入れれば円形になる。水と同様に人も環境に応じて変化するとの意味。中国唐代の詩人、白居易が残した名言です。馬にもそのまま当てはまる言葉かもしれません。
シンエンペラーの姿を1年ぶりに見て少々驚かされました。昨年の
ジャパンC(2着同着)以来の馬体診断。当時と比べて首と肩の筋肉が別馬のように発達している。板金の西洋甲冑(かっちゅう)で武装したような太い首と分厚い肩。欧州馬と変わらない重厚な姿です。この1年、中東から欧州へ転戦し、タフなコースでレースと調教を重ねてきました。首と肩を強く使わないと、こなせない馬場です。遠征先の環境が西洋甲冑型のボディーをつくったといっていい。馬も器の形に応じてその姿を変えるのです。
欧州仕様のパワフルな筋肉は日本の軽い芝で持て余すかもしれません。レースの序盤からかなり行きたがる恐れがある。西洋甲冑の馬体には2400メートルよりも2000メートル戦の方が合っているのではないか。そんな不安を多少なりとも和らげてくれるのがゆとりある立ち姿です。
ハミをつけず、モグシ(簡易頭絡)だけで穏やかにたたずんでいます。遠くを見つめる瞳、ごく自然に流す尾。どこにも気負いがない。旅は人を成長させるといいますが、馬の気性も成長させるのでしょう。この平常心を競馬場に行っても保てればレースで抑えが利くかもしれません。
前走・愛チャンピオンSの直後に喘(ぜん)息(炎症性下気道症候群)と肺出血が内視鏡検査で判明。そのため凱旋門賞を自重して
ジャパンCに目標を切り替えたそうです。2カ月半の検疫休養明けですが、そんなトラブルがあったとは思えないほど良く仕上がっています。毛ヅヤも良好。晩秋の柔らかい陽光に栗色の輝きを放っています。
今年の
ジャパンCに出走する外国馬はフランスから来日した
カランダガンだけですが、欧州型の
パワーホースならもう1頭います。長期渡航で西洋甲冑のような筋肉を身につけた
シンエンペラー。馬も方円の器に従う。欧州の環境に合わせて欧州型に姿を変えた新皇帝です。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の81歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。